サンドイッチマンの伊達さんが、塾の英語教師が本当に英語ができるか確かめるために突撃取材をする番組がユーチューブにアップされていました。
人気のスゴ腕英語講師に聞く 本当に英語を話せますか?
塾の英語教師と言えば受験のために文法などの読み書きばかりを教えているイメージがあり、「実践的な英会話は本当にできるの?」とつい思ってしまうが…
登場するのは個別指導塾B-fatの沖津先生 (今は塾をやめられているようです)、笑顔の学習塾の堀口先生、ジーワンラーニングの安田先生の3人です。沖津先生と堀口先生の英語ははちゃめちゃですが、2人は個別指導塾の先生です。個別指導塾では一人の講師が数科目教えないといけないので英語の専門家とは言えません。だから「人気のスゴ腕英語講師」という表記が間違っています。
では、実際に英語教師は十分な英語力があるのでしょうか。
英語教師は本当に英語力があるのか?
中学と高校、塾や予備校、そして大学の英語教員は本当に英語ができるのでしょうか。何をもって「英語ができる」ということになるのか、という問いは当面スルーして回答すると、「中高校や塾の英語教師で英語ができる人はほとんどいない、予備校では多少はいるがあまりいない、英語科なのに十分な英語力がない大学教授はそれなりに見かける」という感じでしょうか。平成26年度に文部科学省が行った「英語教育実施状況調査(中学校)」によれば、「中学校の英語担当教員のうち、英検準1級以上又はTOEFL PBT 550点以上、TOEFL CBT213点以上、TOEFL iBT 80点以上又はTOEIC730点以上を取得している者の割合は28.8%」だそうです。
英語の実力は十分あるのにTOEFL, TOEIC, 英検のいずれも受けたことのない中学英語教員はあまりいないでしょうから、28.8%という数字はそれなりに信憑性のある数字かと思います。しかし、TOEFL PBT 550点というのはアメリカの大学に「入学」するのに必要な足切り点にすぎません。TOEIC730点というのも一般企業の就職活動の履歴書に書ける最低ラインの得点です。東進や代ゼミなどの大手の塾・予備校の英語講師の英語力はもっと高いでしょうが、その他進学塾や補習塾の英語講師の英語力は中学の英語担当教員と似たりよったりか、もしくはそれよりも低いでしょう。
大学の英語教員はどうでしょうか。「大学の英語担当教員は当然、英語力があるに違いない。中学と高校の英語教員を育成する先生が英語ができないわけはないだろう。」 そう思っている人は多いかと思います。しかし、私はけっこう疑っており、文科省は大学英語担当教員の英語力も調査すべきだと思っています。例えば、和歌山大学教育学部の「英語教育」担当の研究歴を確認すると、5人いる教員の中で英語で論文を執筆している研究者は、西山淳子准教授と松山哲也准教授の2人だけです。たとえ英語担当教員だとしても、日本語を使って授業をし、論文は日本語で書くという研究スタイルを何十年も続けて高い英語力をキープするのは至難の業かと思います。キープするどころか、大学に英語講師として採用された時点で大した英語力はなかったのかもしれません。教育学部の英語担当教員の多くは高校の英語教員上がりです。TOEICで700点程度しか取れないまま高校に採用された英語教員が日本の大学の大学院で英語学の修士号を取り、海外経験ももないまま、教育学部の英語教員として採用されるというのは割とよくあることのようです。
なぜ英語教師の英語力は低いのか?
「英語の先生なのになんで英語ができないの?」 外国人と英語でうまくコミュニケーションをできない英語教師を見るとついそう思いがちですが、私は逆の反応をします。英語が下手な英語教師を見かけても何も不自然さを感じません。逆に英語ができる英語教師にたまに出会うと、「英語の先生なのに英語ペラペラですごいなあ~」と思ってしまいます。なぜ世間では「英語の先生は英語ができて当たり前」と思われているのでしょうか。英語を使う職種で英語が大してできなくてもやれる数少ない仕事が英語教員です。英語の先生が英語を使う相手(生徒)は自分よりも英語ができない人たちです。だからただの大学生が塾で中高生に英語を教えることができます。できない人に教える人よりも、できる人を相手にする方がはるかに高い英語力が必要となります。外資系の企業で外国人と商談をしているビジネスマンや、英語論文を執筆し、国際会議でプレゼンテーションをしている研究者の方が英語担当教員よりも英語力があります。彼らは「生の英語」を日常的に使っているから自然と英語力も向上します。英語関連職業の中で英語力を最も必要としない職種が「生の英語」を使わない英語教師なのです。
「でも毎日英語を教えていたら自然と英語力がつくんじゃないの?」
断言できますが、英語を教えても英語力は大してつきません。高校の英語教員を例にとります。割とちゃんとしているのが英文法力です。高校生に英語を教えていると英文法力はつきます。しかし、ボキャブラリー、発音、スピーキング、リスニング、ライティングの力がつくことはありません。
ボキャブラリー力: 大学受験に必要な語彙数は5,000ワード程度と言われています。英語教科書や参考書・問題集に10,000語レベル以上の英単語が出てくることはほとんどないため、受験英語をいくら教えても語彙力が伸びることはありません。
発音: 例えばRとLの違いを聞き取れる高校生はあまりいないので、英語の先生がRとLを正確に発音できなくてもそれを指摘されて困ることはありません。実際、英語の発音をしっかり教えている高校英語教員はほとんどいません。
スピーキング: 日本の高校生に日本語で英語を教えて、英会話力が必要となることは特にありません。
リスニング: 日本の高校生に日本語で英語を教えて、リスニング力が必要となることは特にありません。
ライティング: 英作文の授業をいくら担当しようが大したライティング力はつきません。英語ライティングは翻訳とは異なります。
要するに、高校生に英語を教えても教師の英語力が向上することはないわけです。
むろんほとんどの中高校英語教師は自分の英語力に満足していません。だから独学で英語学習を続けている英語教師も数多くいます。しかし、就業時間中に授業と授業の準備以外で英語に接することはほとんど不可能です。高校の職員室で原書を読んだり、CNN NewsやFriendsを視聴するのはまず無理でしょう。平日の帰宅後と週末しか空いた時間はありませんが、休みにしか英語を学べない人よりも、仕事中に英語を使っている人の方がはるかに容易に英語力は向上します。自分の英語力に不満があり、どうしても英語力をつけたいと考える大学生は英語の先生を目指さない方がよいかもしれません。