複文の主節の動詞が過去時制の時には、名詞節の従位節の動詞もそれに合わせて過去の形にする、というルールを「時制の一致」と言います。「時制の一致」が適用されるのは「従位節が名詞節の複文」においてです。
時制の一致とは何か?
「時制の一致」という言葉を何度も聞いたことがあるかと思います。非常に紛らわしい英文法ルールなので、それがどういうものかちゃんと理解できていない人が多いようです。「時制の一致」とは端的に言うと、複文の主節の動詞が過去時制の時には、名詞節の従位節の動詞もそれに合わせて過去の形にする、というルールを指します。
I know he wants to go out with Suzu Hirose.
私は彼が広瀬すずとデートしたがっていることを知っている。
↓
I knew he wanted to go out with Suzu Hirose.
私は彼が広瀬すずとデートしたがっていることを知っていた。(←日本語は時制の一致がないので「デートしたがっていた」と訳されないことに注意)
「時制の一致」が適用されるのは「従位節が名詞節の複文」においてです。複文とは何でしょうか。文は単文・重文・複文の3つに分けることができます。1つの主部と1つの述部からなる文が単文、複数の等位節で構成される文が重文、主節と従位節で構成された文が複文です。
単文: I like him.
重文: I like him and she likes me.
複文: I like him because he always helps me.
「主語+述語」の形をもつ文を「節」(clause)と言います。節は①等位節・主節・従位節、②名詞節・形容詞節・副詞節、の2通りに分類できます。
等位節: I am reading and she is singing. (下線部が等位節)
名詞節: I believe that she loves me. (下線部が主節。黄色線が名詞節の従位節)
形容詞節: I saw her who was standing there. (下線部が主節。黄色線が形容詞節の従位節)
副詞節: She was cute when she was young. (下線部が主節。黄色線が副詞節の従位節)
「時制の一致」が適用されるのは「従位節における名詞節」においてです。主節は複文でメインとなる「主語+述語」の節ですが、その主節にifやthatなどの従位接続詞やwhichなどの関係詞を頭につけて主節にくっつく節を従位節と言います。名詞節とは名詞の働きをする節のことです。複文では名詞節の従位節は文全体の目的語になります。「節」が何かよくわからない人は以下の記事をお読みください。
繰り返しになりますが、時制の一致が起きるのは、複文の、従位節の、名詞節においてです。
①単文・重文・複文
②等位節・主節・従位節
③名詞節・形容詞節・副詞節
時制の一致は従位節が名詞節である複文で起きるということをまず頭に入れておいてください(注: それ以外の場合にも時制が一致することはありますが、それは任意に起きていることであって、時制の一致のルールに従って起きているわけではありません)。複文の主節と従位節共に動詞がありますが、主節の動詞が過去時制になると、従位節の動詞の時制も変化します。これがなぜか日本語では「時制の一致」と言われます。実際にはこの「時制の一致」の原則ではほとんどの場合で主節と従位節の動詞の時制が「一致」しません。主節と従位節の時制が共に現在形の場合、主節の動詞が過去形になると、従位節の動詞も過去形になるので、ここでは時制が一致していますが、
I think she was beautiful when she was young.
私は彼女は若い時きれいだと思う。
というような主節と従位節の動詞の時制が一致していない場合、主節の動詞の時制が現在形から過去形に変わると、従位節の動詞の時制は過去形から過去完了に変わるので永遠と時制は一致しません。
I thought she had been beautiful when she was young.
私は彼女は若い時きれいだったと思った。
だったら「時制の一致」ではなく「時制の平行移動」と言った方がわかりやすいかと思います。実際、英語ではこの原則をthe sequence-of-tense ruleやbackshiftingと言います。
「時制の一致」の原則
時制の一致は仮定法が使われていない複文で主節の動詞が過去時制の時に適用されます。「仮定法」の文では時制の一致は生じません。仮定法については以下の記事をお読みください。
また、ここで「過去時制」とは過去形・過去進行形・過去完了形・過去完了進行形の4つを指します。主節の動詞の時制が現在・現在完了・未来(およびそれぞれの進行形)の場合は時制の一致が起こらないため、従位節の時制は主節の時制とはかかわりなく、その意味に従って決まります。
[例: 主節の動詞が現在形の場合]
I think Suzu is beautiful.
I think Suzu lived in Shizuoka prefecture.
I think Suzu will become one of the most distinguished actresses in Japan.
複文で主節の動詞の時制が、過去形・過去進行形・過去完了形・過去完了進行形の場合には、従位節の動詞は「原則として」以下のように変わります。
現在 ➡ 過去
過去 ➡ 過去完了または過去のまま
現在完了 ➡ 過去完了
助動詞 ➡ 過去形助動詞
[従位節の動詞] 現在→過去
主節の動詞の時制が現在から過去に変わると、従位節の時制が現在の場合は「半自動的」に過去に変わります。ここで「半」という言葉を含めているのは、後で述べるように、このルールに従わない場合がよくあるからです。
『天空の城ラピュタ』でシータが空から降りてきた翌日、パズーが彼女に「さっきまで、ひょっとすると天使じゃないかって心配してたんだ。」と言います。
I thought maybe you were an angel or something.
or somethingは「~か何か」という意味です。「私はあなたが天使か何かじゃないかと思う」だと
I think maybe you are an angel or something.
となります。ここで主節の動詞であるthinkが過去形のthoughtになると、従位節の動詞であるareも過去形のwereに変わります。これが「時制の一致」です。
[従位節の動詞] 過去→過去完了
主節の動詞の時制が現在から過去に変わると、従位節の時制が過去の場合は「半自動的」に過去完了に変わります。ここで「半」という言葉を含めているのは、口語では過去形のままであることが非常に多いからです。
図書館で突然聖司に声をかけられた雫。「もう行っちゃったのかと思ってた。」
Seiji! I thought you had left for Italy.
主節の動詞が現在形だと
I think you left for Italy.
になります。「あなたはイタリアに向けて出発したと私は思う」という意味ですが、聖司が目の前に現れたことで、「私は思う」が「私は思った」に変わります。今はそう思っていないので過去のことに変わるからです。そうなると従位節の動詞も過去から過去完了に移り、leftがhad leftになります。
[従位節の動詞] 現在完了→過去完了
主節の動詞の時制が現在から過去に変わると、従位節の時制が現在完了の場合は過去完了に変わります。
ポルコの「雲の中だと気がつくまでにずいぶん時間がかかったよ。」というセリフが以下のように訳されています。
Then I realized I’d just flown into a cloud.
realizeは「~に気づく」、flownはflyの過去完了形で「飛行する」、into a cloudは「雲の中に(向かって)」という意味です。主節の動詞が現在形だと
Then I realize I have just flown into a cloud.
になります。この現在完了のhave flownが過去完了のhad flownに変わっているわけです。ここでは完了形でよく伴うjust (ちょうど)があるので現在形に戻すと従位節の動詞が現在完了になると容易に予想できますが、元の従位節の動詞が過去形の場合も、主節の動詞が過去形になると従位節の動詞は過去完了になるので、時制の一致がある前は過去形もしくは現在完了のどちらか注意深く見分ける必要があります。
[従位節の助動詞] can, may, will→could, would, should
主節の動詞の時制が現在から過去に変わると、従位節にcan, may, willのいずれかの助動詞がある場合、これらを過去形にしないといけません。
can+動詞の原形 ➡ could+動詞の原形
may+動詞の原形 ➡ might+動詞の原形
will+動詞の原形 ➡ would+動詞の原形
shall+動詞の原形 ➡ should+動詞の原形
I always tell my daughter that she cannot sleep with her father-in-law.
私はいつも娘に義父といっしょに寝ることはできないと言っている。
↓
I always told my daughter that she couldn’t sleep with her father-in-law.
私はいつも娘に義父と一緒に寝ることはできないと言った。
My father says that he may not be my real father.
父は自分はお前の本当の父親ではないかもしれないと言う。
↓
My father said that he might not be my real father.
父は自分はお前の本当の父親ではないかもしれないと言った。
ピッコロの親父がポルコに「今夜あたり着くと思って待っとったよ」と言います。
Hey Porco, I thought you would come here tonight, so I waited up.
wait upは「寝ないで待つ」という意味です。
I think you will come here tonight.
のthinkが過去形になったため従位節の助動詞willがwouldに変わっています。
このように「時制の一致」は主節の動詞の時制が過去にずれると従位節の動詞の時制も同じようにシフトするというものです。現在は過去に、過去は過去完了にシフトします。では従位節の動詞が過去完了の時は、主節の動詞の時制が過去にずれると何に変化するのでしょうか? 答えはそのままです。過去完了より前に行きようがないので何も変わりません。同じく、過去形を持たない助動詞も何も変化しません。従位節にあるmust, should, used to, ought toは主節の動詞が過去になっても何も変わりません(注:shouldは文法的にはshallの過去形とされていますが、それが意識されずに使われることが多いです)。
過去完了 ➡ 過去完了のまま
must+動詞の原形 ➡ must+動詞の原形のまま
should+動詞の原形 ➡ should+動詞の原形のまま
would+動詞の原形 ➡ would+動詞の原形のまま
used to+動詞の原形 ➡ used to+動詞の原形のまま
ought to+動詞の原形 ➡ ought to+動詞の原形のまま
[従位節の動詞] 過去完了→そのまま
Kazuyoshi Miura says that he had never lived in Los Angeles before.
三浦和義 はロスアンゼルスに住んだことはまったくないと言っている。
↓
Kazuyoshi Miura said that he had never lived in Los Angeles before.
三浦和義 はロスアンゼルスに住んだことはまったくないと言った。
[従位節の助動詞] must, should, would, used to, ought to→そのまま
My teacher says that I should be ashamed of myself. 先生は私が自分を恥ずかしく思うべきだと言う。
↓
My teacher said that I should be ashamed of myself. 先生は私が自分を恥ずかしく思うべきだと言った。
時制の一致の例外
時制の一致とは複文の主節の動詞が過去時制の時には、名詞節の従位節の動詞もそれに合わせて過去の形にする英文法ルールと説明しましたが、実際にはこのルールは容易に破られています。あまりにも簡単に破られるので、時制の一致を受けない場合を「例外」として捉えない方がよいです。どのような時に時制の一致の原則が守られないかというと、①従位節の内容が今も当てはまることであり、今も当てはまることを明示したい場合と、②従位節の内容が主節よりも過去のことであることが明白な場合です。時制の一致を守るべきかどうかは①では任意的、②では守らないのが普通です。
今も当てはまる事実を言う場合
不変の真理を強調する場合
今においても変わらない不変の真理は時制の一致を無視して、現在形のままでかまいません。「かまわない」というのは、時制の一致に従ってもかまわないということです。
Bakbaon said that the sun rises in the west and sets in the east.
バカボンは西から昇ったお日様が東へ沈むと言った。
むろん太陽が西から昇るというのは間違いですが、バカボンはそれを不変の真理と信じて言っているわけですから、従位節の動詞が現在形のままでかまいません。ただし、別の人がバカボンは間違ったことを信じていたというニュアンスで話すときは、それは不変の真理とされないので従位節の動詞は過去形になります。
Bakbaon believed that the sun rose in the west and set in the east.
バカボンは西から昇ったお日様が東へ沈むと信じた。
また、「西から昇ったお日様が東へ沈む」という不変の真理(?)ではなく、バカボンが言ったという過去の行為に焦点が当たると、時制の一致が適用されます。
Bakbaon said that the sun rose in the west and set in the east.
バカボンは西から昇ったお日様が東へ沈むと言った。
ことわざや格言も今も当てはまることなので時制の一致が無視されることが多いです。
He often said the frog in the well knows not of the great ocean.
彼はよく、井の中の蛙大海を知らず、と言っていた。
今も当てはまる事実であることを強調する場合
フィオとポルコの会話です「おじいちゃんが教えてくれたの。アドリア海の飛行艇乗りはみんなジーナに恋をするんだって。」「じじい、余計なことを。」
“My grandfather told me that all the seaplane pilots of the Adriatic fall madly in love with Gina.” “That’s wonderful, Fio.”
ポルコのセリフが「フィオ、それは素晴らしいこったな。」という意味に変わっていますが、フィオは「今も」飛行艇乗りがジーナに恋をするということを強調したいがために、従位節の動詞を現在形にしています。ここで時制の一致に従うと、主節の動詞が過去形なので従位節の動詞も過去形になります。
My grandfather told me that all the seaplane pilots of the Adriatic fell madly in love with Gina.
キキも時制の一致を無視しています。ウルスラに会って届け物の猫のぬいぐるみを配達した帰りにキキがジジに「そうだ、ぬいぐるみを見つけてくれた人がわたしをモデルに絵を描きたいって」と言います。
By the way, the painter who found the stuffed cat told me she wants to do a drawing with me in it.
時制の一致に従うと
By the way, the painter who found the stuffed cat told me she wanted to do a drawing with me in it.
と言うべきですが、キキは絵描きのウルスラが今もそれを望んでいることを強調したくて、従位節の動詞を現在形にしています。
また従位節での内容がまだ起きていないことが明らかな場合は、 過去形にするとすでに実現したものの誤解されるので時制の一致は無視して未来の形のままにします。
She said that she is going to kill herself.
彼女は自殺すると言った。
be going toはwillでもかまいませんが、時制の一致を無視することで彼女は自殺を敢行していないことがわかります。She said that she would kill herself. だとすでに自殺したのかそれともまだしていないのかどちらかわかりません。
過去の事実であることが明白な場合
「デヴィ夫人はアメリカでフィリピン大統領の孫をシャンペングラスで殴打し、逮捕されたことがあると彼は言った。」という場合、デヴィ夫人の行為はすでに過去にあった行為なので、主節の動詞がexplainからexplainedに変われば、従位節の動詞も過去(was arrested)から過去完了(had been arrested)に変わるというのが時制の一致です。
He told that Dewi Sukarno had been arrested in the United States for beating the grandson of the President of the Philippines with a champagne glass.
しかし、デヴィ夫人の行為が彼が説明した時よりも前になされたというのは明々白々です。そういう場合、いちいち従位節の動詞を過去から過去完了に変えずに、過去形のままでかまいません。
He told that Dewi Sukarno was arrested in the United States for beating the grandson of the President of the Philippines with a champagne glass.
特に歴史上の事実は過去に起きた事が誰にもわかることなので、「いちいち」時制の一致に従って従位節の動詞を過去完了にする方が不自然に感じられます。「日本史の先生が、明智光秀が織田信長を殺したと授業で話した」と言う時に、本能寺の変は日本史の先生が話した時よりも前に起きたことと 「いちいち」 考えるのもばからしいですよね。英語でもそうなのです。だから歴史上の事実を示す場合は過去形を過去完了に直しません。
We learned that Hirobumi Ito was the first prime minister of Japan.
私たちは伊藤博文は日本で最初の首相であると習った。