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レーシックビジネスの崩壊: ①レーシックという医療ビジネス

「近眼はもともと病気ではないと私は思っています。病気でないものに手術をして感染症をおこしたりして視力が落ちたりするのは由々しきことで、一例たりとも起こってはいけないのです。成功率90何%といっている人もいますが、病気でないものを手術するのなら成功率は100%でないといけません。病気はやむを得ず手術するのですから、成功率90何%なら立派な成績だと思いますが、病気でないものに手を加えて、結果、視力が落ちるなど機能がかえって低下したりするのは問題です。」
増田寛次郎・元東京大学教授。後に品川近視クリニック最高顧問に就任。

増田寛次郎

向かって左から2番目が増田寛次郎・品川近視クリニック最高顧問

目次

2016年6月27日の産経新聞記事

今年6月に産経新聞に奇妙な記事が掲載されました。平沢裕子・東京本社文化部生活面記者執筆の「視力を矯正するレーシック手術が激減していた! ピーク時の9分の1 その真相を探ってみると…」というタイトルの記事です。2008年には45万件あったレーシック手術数(当時、レーシック手術数の実態調査は行われていなかったのに、何を根拠に平沢記者が45万件という細かい数字を出したのかは不明です。本稿では大まかな数字として流布されている「2008年50万件」説に従います)が2014年には5万件に激減した理由を彼女は探りますが、その理由としてあげられたのが、
①2008年9月以降に起きたリーマンショックに端を発した不景気
②2008年から2009年に起きた銀座眼科のレーシック手術集団感染事件
③メガネブームとコンタクトレンズの性能の向上
の3点です。

平沢記者は3人の眼科医にインタビューしていますが、大筋は根岸一乃・慶應義塾大学医学部眼科教室准教授の主張に従い、「レーシック手術は安全性と有効性が確立されており、信頼できる医療機関で手術する限り、問題のない手術」というスタンスでこの記事を執筆しています。平沢説に従うと、手術数が激減したのはリーマンショックと銀座眼科事件が起きた2008年後半から2009年にかけてということになりますが、彼女は根岸准教授が勤める慶應義塾大学医学部眼科教室が年間屈折矯正手術数を公表していることを知らなかったようです。http://ophthal.med.keio.ac.jp/performance/index.htmlによれば、慶応大学病院での手術数は以下の変化を遂げています。

2008年 208
2009年 148
2010年 125
2011年 119
2012年 131
2013年 112
2014年  15
2015年  24
2016年  11
2017年  15
2018年  9

この数字は平沢説を真っ向から否定しています。リーマンショックと銀座眼科事件翌年にレーシック手術数は激減していません。ピーク時の208件から3割程度の減少は「平均への回帰」で十分説明できます。激減したのは2009年ではなく2014年です。前年の112件の手術数が15件にまで減っています。1ヵ月に9人以上が手術を受けていたのが1人にまで減れば病院のショックは計り知れないでしょう。しかし、根岸准教授は平沢記者にこのことを話さなかったようです。

なぜでしょうか。

2000年に厚生労働省がレーシック手術を認可し、日本でもレーシック手術を受けられるようになります(アメリカは1995年から)。手術数は徐々に増え、2008年にピークを迎えた後、微減し始め、2014年に一気に減ります。2015年以降はわずからながら微増はしますが、どのレーシック眼科でも赤字状態が続いています。レーシックビジネスの崩壊です。この中で唯一、黒字で客足が衰えないのが最大大手の品川近視クリニックです。

何がパズルになるかは観察者のスタンドポイントによって変わります。この辺りは経済学者でもあり政治学者でもあったPaul DiesingのHow Does Social Science Work?に詳しいですが、平沢記者の立ち位置はレーシック手術をする側です。そのためレーシック医師からすればうまくいっていた2008年頃が「常態」であり、手術数の減少が「異常」な問われるべきパズルに映ります。しかし、レーシック手術を受ける側から眺めると、手術者数が年間50万人を超えた2008年頃こそがあり得ない事態に映ります。

なぜ2008年が異様な事態に映るのでしょうか。もっとも単純な意思決定理論に従えば、完全情報を有したアクターは自己の選好に従い、コストとベネフィットを検討した上である選択を行うか行わないか合理的に決定することが予想されます。レーシックのベネフィットは遠方視力の向上です。このベネフィットにどれだけの価値を置くかは個々人によって異なります。このベネフィットに見合うだけのコスト(手術代と手術に失敗するリスク)をどれだけ負えるかが意思決定で重要になります。あらゆる外科手術は失敗するリスクを抱えているため、患者はコスト・ベネフィット計算をした上で手術を受けるかどうか合理的に判断することが期待されますが、レーシックも手術に失敗してひどい後遺症を被るリスクが0%ではありません。そこで、レーシック手術のリスクについて見てみましょう。読者の方は、レーシック手術のリスクを知った上で、2008年と2014年のいずれが「異常事態」に映るか考えてみてください。

レーシック手術に否定的な眼科医

平沢記者によればレーシック手術は「長期的な観点からは安全性や有効性が確認されて」いるそうです。レーシック医師は誰もが患者にそう説明します。しかし、レーシック手術に関わらない医師の多くがレーシック手術に否定的です。「日経メディカルOnline」が2015年に1003人の医師に対して行った調査では、「近視だとしたら、レーシック手術を受けますか?」という問いに対して91%が受けないと回答。眼科医26人中「受ける」と回答したのはたった2人でした。その理由として挙がったのが
1. 長期予後が不明 118人
2. 失敗が怖い、危険、リスクが高い 106人
3. 副作用の懸念、安全性に疑問 96人
などです。

レーシック

眼科医ブログでもっとも閲覧数の多いのが大阪市旭区の竹内眼科医院、奈良県郡山市の松本眼科、東京都江東区の清澤眼科医院のブログですが、いずれもレーシックに否定的です。

竹内眼科医 「私は、もちろん近視の程度によりますが、通常の近視の人に、この手術を勧めたくありません・・・・。これが屈折矯正手術について少し考えてみた、現時点での結論です。 」

清澤眼科医 「私のレーシックに対する一般的な考えは、”世の中にはそのような方法があるのだから患者さんがどうしてもというなら、自己責任で判断することを条件に紹介はするが、敢えて私が患者さんに勧めることはしない。参考に申し上げるならば、もし私の家族が受けたいといったら、お父さんは絶対に許さないというような ものだ”と説明しています。 」

松本眼科医 「レーシック(LASIK)手術を受けられた方は白内障手術が早期に必要になるかもしれません」 「レーシック手術を受けた方は、他の方よりも網膜はく離や眼底出血などが起こりやすいと入れています

TBSの「ジョブチューン医者ぶっちゃけ」に眼科医枠でよく出演する梶田雅義氏や平松類氏もレーシック否定派です。眼科医からレーシック手術だけはするなと言われた経験がある人は多いようです。

MuraCさん 「(´꒪ω꒪`) レーシックやる眼科医は眼科医じゃねぇ…なんてうちの眼科医が言ってましたが… 」

おれんじさん 「眼科勤務です。レーシックを後悔する患者さんはたくさん受診されます。あの系列の眼科では信じられないような事が平気で行われており、世間のレーシック後のいい噂との乖離に驚くばかりなんです。 」

野口内科さん 「同級生がレーシックを希望し眼科へ。手術の説明してる最中に職業が外科医とわかるや「うちでは手術しません」と断られた。同業者には積極的に勧められない手術なんだなと理解してる。 」

ふらいと13さん 「後輩女医がレーシック難民になりそう。彼女の進路に影響が出なければいいが…心配である。 」

さくら眼科さん 「さくら眼科にも、レーシックを受けたら、「ドライアイがひどくなった」「眼精疲労がひどい」「目の激しい痛みが続く」などなど、様々な症状を訴える患者さんがいらっしゃいます。処置として、投薬云々を行うことはできますが、根本的な改善にはなりません。 」

病理専門医の善川チャーリーさん 「数年前、片目だけ視力が0.3だか、めちゃくちゃ低くもないのに25万かかるレーシック手術やると言って実行した30代知人男性。私も含め周囲は皆やめと けの大合唱なのに聞く耳を持たなかった。案の定、術後に「やめておけばよかった」と後悔…」

布施純郎医師 「レーシックについては、あまり詳しくありません。でもリスクもありますし、あまりお勧めしません。眼科学会のホームページを見て良く考えて下さい。 」

KOW-HEYさん 「眼科の先生に相談してもないのに「レーシックはやめとけ」って言われたwwwレーシックやべえwww 」

syoukeiさん 「眼科専門医の友人にレーシック止められてるからやってない 」

ぬーぼーさん 「妻は眼科勤務(検査を専門とする視能訓練士という職業)なのですが、「レーシックはおすすめしない」と言っていました。理由としては…」

華血さん 「うちの先生がレーシック全否定だからリスクしか知らないし最新の方法だとちがうかもだから詳しくは私もわからないんだけども… 」

けいぴょんさん 「眼科で働いてるんだけど、レーシックはまだまだ待った方がいいって院長が言ってた! 」

影さん 「レーシック、実は私もやろうかと思った事があってかかりつけの眼科の医師にそれとなく聞いたところ「10年、20年先の症例が無いし今後どうなるかわからないから安易にやるのは止めておいた方がいい」と言われたな 実際後遺症も多いらしいし、自己責任で済まない人はやらない方が吉 」

RISAさん 「レーシックはやめたがいいって眼科の友達←がいってました・・・ 」

takuさん 「眼科の先生に聞いてみたら、レーシックは老眼のリスクとかまだわかってない部分が多いからメガネとかコンタクトの方がいいよって言ってました(っε・`*) 」

笑うヤカンさん 「レーシックは眼科の人間に「やめた方がいいよ」って言われたので絶対やらない 」

KEN16さん 「私の妻が眼科で働いてるのですが、眼科関係者でレーシックやってる人間は全くいないそうです。という点からもやはり相応のリスクのある処置処方なんだと思われます。 」

あるさん 「レーシックは医者にやめろ言われましたw 」

おえかきまちこさん 「でもレーシックする気もないし(地元に居た時に眼科の先生にかたくかたく止められた。やめなさいって) 」

匿名さん 「主人が眼科医だけど眼鏡です。どんな上手い医師でもまだレーシックは実験段階 ちなみにレーシックで権威ある医師も眼鏡

ホノロットさん 「目のレーシック手術はあまりしない方がいいらしいね。看護師に止められた 」

坂本龍之介さん 「レーシックは危ないらしいよ((((;゚Д゚)))))))副作用が出る人とかいるみたいだよ!眼科の先生が言ってた! 」

氷炭さん 「今日緊急室の眼科のお医者さんに聞いたら、レーシックもオルソケラトロジーもお勧めはしないって言ってた 」

やんぐさん 「眼科行ったらレーシックは危険すぎるって言われた。 」

りのさん 「レーシックしたいけど眼科勤めてる子からやめたほうがいいって言われてひよってる 」

おとといさん 「目とかここ10年でやっと研究盛んになった分野だから、正直近視矯正のレーシックとかも何年効果があるか分からない実験段階な手術だって大学の先生が言ってた 」

ネフラデル国昭さん 「かかりつけの先生には、レーシックは失敗すると取り返しがつかないから絶対やめたほうがいいって言われました 」

重瑠さん 「今日の人は良い人だった 以前から疑問に思ってたことをぶつけてみた 何故眼科医がみんな眼鏡なのか聞いてみた 何故みんなレーシックしないのか 回答は・・ やっぱり思ってた通りだった・・ 私は一生コンタクトと眼鏡で過ごします 」

気仙沼市内の眼科

消費者庁の注意喚起

消費者庁と国民生活センターが共同運営している事故情報センターで2016年頃までもっとも検索数が多かったのがレーシックです。2012年から2014年までは常に検索数1位でした。転機は2013年12月4日に起きます。この日、消費者庁は安易にレーシック手術を受けないように注意喚起をします。

調査に協力した日本眼科学会は翌日12月5日に「重要なお知らせ」としてホームページに消費者庁発表を掲載します。
http://www.nichigan.or.jp/news/044.jsp

2009年8月から「レーシックを受けることをお考えの皆様へ─そのレーシックは本当に安全でしょうか?─」という記事をホームページに掲載し、レーシックのリスクを訴えていた日本眼科医会も消費者庁発表を「重要」事項と位置づけ、加盟眼科に「患者の皆様へ 『レーシックとその前後の診療は健康保険が利きません。」というチラシを配布し、独自に注意喚起をします。

lasik-chui

レーシック手術とは

要するに日本眼科学会と日本眼科医会という二大眼科医組織がレーシックに否定的な記事をホームページに掲載して注意喚起をしているわけです。眼科医が危惧するのがレーシックの手術方式です。レーシック手術では点眼麻酔の後、眼球に吸引リングをつけて眼球を固定し、マイクロケラトームかイントラレーザーを用いて角膜の表面をめくりフラップとよばれるフタを作ります。そしてエキシマレーザーを角膜に照射して角膜の中央部分を削り、最後に照射面を洗浄して、剥がしたフラップを戻し、角膜に接着させます。しかし、角膜を削って、ドーム状のなだらかな曲線を描いている角膜の一部分をひしゃげた状態にして大丈夫なのか。また、①眼圧の上昇、②フラップの作成、③三叉神経の切断も危惧されます。吸引リングを角膜の周りに乗せる時に吸引をかけることで眼圧が正常の3倍以上に上昇します。しかし急激に眼圧を上げると緑内障、網膜乖離、飛蚊症を引き起こすリスクが生じます。フラップ作成で一旦剥がした角膜の表面は通常1~3ヵ月間で角膜に固定されますが、手術前の状態に戻ることはありません。そのため、強い外圧がかかるとフラップがずれてしまいます。フラップを作成する際に角膜浅層の三叉神経を切断しますが、レーシック医は切断された三叉神経は3ヵ月ほどでほとんどが回復すると言っているにもかかわらず、回復状況には個人差があり、うまく回復しないととドライアイなどの合併症が生じます。

レーシック手術を受けて1週間から1か月後もすると術後症状は安定します。その時期の満足度は9割を超えます。90%だと10人に9人、95%だと20人に19人が「レーシック手術を受けてよかった」と思うわけです。その成功率は高く感じられますが、裏を返せば、10人に1人、20人に1人は術後の状況が良くなく、手術を受けたことを後悔しているわけです。合併症は手術を受けて3ヵ月くらいまでは徐々に減る傾向にありますが、3カ月ほどたっても治らない症状は、逆に時間の経過とともに悪化することが多いです。最初の半年には出ていなかった症状が後から出てくることもあります。そのため、全体の満足度は時間の経過と共に低下します。消費者庁が2013年におこなった調査によれば、4割余りの人が何らかの不具合があると回答しています。

レーシックの不具合

では、レーシック手術を受けるとどのような不具合が生じる「可能性」があるのでしょうか。レーシックの不具合は①見え方、②目の症状、③眼疾患、④身体症状の4つに分類することができます。まずは「見え方」です。

見え方の悪化

レーシックは遠方視力を向上させる手術です。視力検査で測るのがこの遠方視力ですが、手術を受けた人の9割以上の人の視力が1.0以上に向上します。しかし「見え方」というのは遠方視力だけで測れるものではありません。以下、レーシック手術を受けることで生じる可能性のある「見え方」の質の低下を列挙します。

乱視

レーシックで乱視が改善される人もいれば、悪化する人もいます。レーザーの照射ずれが原因で乱視が発生した事例が多数報告されています。

近方視力の低下

いわゆる「老眼」ですが、レーシックをしてピントの合う位置を遠くに移せば、「必ず」近くの見え方は悪くなります。若い頃は気になりませんが、歳をとって「調節力」が低下するとレーシックによる近方視力の悪化は顕在化します。

光の見え方の悪化

ハロ・グレア・スターバーストという症状です。光が眩しく感じたり、にじんだり拡散して見えます。レーシックによくある後遺症で、消費者庁調査によれば、16.5%の人が「光がにじんだりギラギラしたりするようになった」と回答しています。

ハロ・グレア

夜間視力の低下

コントラストの低下により、暗いところで微妙な色や明るさの違いを識別することができず、暗所で見にくくなります。これもレーシックによくある症状で消費者庁調査では9.7%の人が「暗いところで見えにくくなった」と回答しています。

視力変化

特に多い症状ではありませんが、レーシックをして日中(朝が見えにくい)もしくは季節(冬が見えにくい)で見え方が変わる人がいます。

動体視力の低下

これも特に多い症状ではありませんが、レーシックをしてピント調整力が落ち、それに伴い動体視力が低下する人がいます。

色覚・コントラストの低下

レーシックををして細かい色の違いが見分けられなくなる人がいます。そのため、レーシック手術を行っている尼崎市の遠谷眼科は「画家やデザイナーなどの芸術家、歯の色で虫歯の程度を見分ける歯科医や、現場におちた塗料のかけらから車種を割り出す鑑識の仕事など、細かい色の違いを見分けるような仕事をしている人」はレーシックを受けることを慎重に考えるよう指導しています。

上記の症状は乱視以外はレーシックをすれば悪化する方向に向かいます。レーシックをしても症状が気にならない人はその変化が本人にも気づかない程度に小さいためです。これらの症状は、起きても日常生活が「不便」になる程度のこととして扱われがちですが、下記の症状ははるかに深刻となります。

視力低下

レーシックをして視力が向上してもまた下がるのであればレーシック手術を受ける人は激減するでしょう。そのため、レーシッククリニックは視力低下はほとんど起きないし、万が一起きても再手術をすれば大丈夫と説明します。しかし、手術数年後に視力が下がる人は多いようです。視力が下がった人たちの声は「レーシックをしてもまた視力は下がるのか?」で確認してください。

コンタクトレンズを使えなくなる

レーシック手術でぺしゃんこになった角膜の表面が、なだらかな球面のコンタクトレンズに合わなくなり、コンタクトレンズをつけられなくなる人がいます。これも「レーシックをしてもまた視力は下がるのか?」で確認してください。

過矯正

レーシックで近視を過度に矯正して視力を上げすぎた状態が過矯正です。レーシック手術の後遺症の中で最も深刻な後遺症のひとつです。レーシックをして一日中ひどい頭痛や吐き気が生じる人がいますが、その多くは過矯正が原因です。度数の強い眼鏡をかけると見えすぎて頭がくらくらしますが、それと同じ症状が出ます。メガネであればレンズの度数を下げればすみますが、レーシックで角膜を削りすぎて過矯正になった場合は、遠視用のメガネや特注のコンタクトレンズをつけることで対応するしかありません。再手術をして視力を落とすことは理屈上は可能ですが、過矯正の再手術に失敗する事例が多数報告されており、あまり勧められていません。

遠視

遠視は遠くのものがよく見える症状ではありません。近視が網膜よりも前でピントが合ってしまうために遠くがよく見えなくなることに対し、遠視は網膜よりも後ろにピントがあってしまうために物がぼんやり見える屈折異常です。遠視は近視よりも深刻であり、①遠くも近くも見にくい、②目が疲れる、③頭痛がする、④集中力が持続しない、⑤内斜視になる、といった症状がでます。レーシックで起きる遠視の多くは過矯正から生じます。

斜視・斜位

レーシック手術後に隠れ斜視が顕在化し、ひどい眼精疲労が生じたり、自律神経を悪化させる人がいます。いわゆるレーシック難民の多くが苦しんでいる症状が第一に過矯正であり、第二に斜視・斜位だと考えられています。

不同視

左右で遠視・近視の度数が大きく異なって起きる症状が不同視です。左右の視力が違うと視力の良い眼で遠くを見て、悪い方の眼で近くを見るようになりますが、レーシック手術で悪い方の眼に強い矯正がかかると、バランスが崩れ近くも遠くも見づらくなり、ひどい眼精疲労が生じることがあります。

複視

あまり多くない症状ですが、レーシックをして物が二重に見えるようになってしまう人がいます。

目の不快感

次は「目の症状」の悪化です。「見え方」は問題がなくても目の不快感に悩まされる人がいます。

眼精疲労

レーシックでよくある症状です。眼精疲労は特に、ピントを無理に合わせようとすることから生じます。人間は近くを見るとき、水晶体を膨らませてピントを合わせますが(これを調節力といいます)、レーシックをして近くが見えなくなると無理にピントを合わせないといけなくなり眼精疲労が生じます。過矯正で遠視になった人は常に調節力を使わないといけなくなるため、とくに眼精疲労がひどくなります。

ドライアイ

ドライアイはハロ・グレア・スターバーストの次に生じがちなレーシックの後遺症です。消費者庁調査では13.8%の人が「ドライアイが続いている(6か月以上)」と回答しています。軽症の場合は、「しょっちゅう目薬をささないといけなくなった」程度ですみますが、「目に当たる風が痛い」、「涙点プラグをつけないといけない、」「目が乾きすぎて朝に起きて目を開けられない」と症状の重い人もいます。

涙が止まらない

レーシック後にドライアイにもかかわらず、涙が止まらない症状が出る人がいます。切断した三叉神経がうまく回復しなかったことから生じていると思われます。

目の炎症・かゆみ

ドライアイから生じる場合があります。

充血・結膜炎

レーシックをしてコンタクトレンズをつけなくなることから充血や結膜炎の症状から解放される人もいますが、逆にレーシックをしたことで充血に悩まされる人もいます。

目の痛み

レーシックをして角膜、眼球、目の奥が常時痛い症状に苦しむ人がいます。とくに角膜が痛くなる「角膜神経痛」(corneal neuralgia)は難病認定されるべき重大疾患です。

眼疾患の発生

レーシックをして様々な眼疾患が生じる可能性が指摘されていますが、レーシックとの因果関係を証明することは困難なため、レーシッククリニックではレーシックをしても以下の眼疾患は起きない、もしくはその可能性は非常に低い、ということにされています。

白内障

北里大学医学部眼科教室の研究でレーシック手術を受けると白内障になりやすくなることが明らかになっています。ちなみに、レーシックをすると眼内レンズの度数を正確に計算できなくなり、白内障手術が失敗する確率が高くなります。

緑内障

フラップ作成時に強い吸引をおこない眼圧を急激に上げることで緑内障になる危険性が指摘されています。手術後に炎症を抑えるためにステロイド点眼薬を使用しても眼圧は上がります。レーシック手術後のステロイド点眼薬の大量使用が原因で急性緑内障が起き、片目が失明した事例が報告されています。

後部硝子体剥離

フラップ作成時に強い吸引をおこない眼圧を急激に上げることで硝子体が網膜から剥がれる危険性が指摘されています。

網膜裂孔・網膜剥離

硝子体が網膜から剥がれる時に網膜に穴があく危険性が指摘されています。

飛蚊症

硝子体が網膜から剥がれて生じた硝子体混濁が見えることで飛蚊症になる危険性が指摘されています。

フラップずれ

レーシック手術で角膜の表面をめくることで様々な疾患が生じる危険性が指摘されています。眼に物や子供の手が当たったり、自分でこすったりするとフラップがズレたり、しわが生じる危険性があります。

上皮欠損

レーシック手術中に角膜の表面を覆っている上皮細胞が剥がれてしまう危険性が指摘されています。

上皮迷入

角膜上皮細胞がフラップの下に入り込んでしまう合併症が起きた事例が報告されています。

層間角膜炎

レーシック手術後に生じるフラップとその下にある角膜実質層の間に浸潤物が入って起きる炎症です。点眼薬や内服薬で治らない場合は、フラップ下を洗浄する必要があります。

再発性角膜びらん

角膜の上皮が剥がれてしまう病気です。いったんなると何度も繰り返し、激痛があります。

角膜混濁(ヘイズ)

フラップ作成を行わないラゼックという手術で報告例がよくある病気です。酸素不足で角膜内皮が死に、角膜が白く濁ってしまう症状です。

とくに危険なのが以下の眼疾患です。

角膜神経痛(corneal neuralgia)

角膜にひどい痛みが生じる病気です。この病気は眼科医の間でもほとんど知られておらず、ドライアイと診断されがちですが、目を潤わせても眼痛は止まりません。目の炎症が原因でもありません。三叉神経を切断したことで脳が誤作動を起こし、ファントムペインが起きていると考えられ、レーシック難民のくろねこさんかえでさんがかかっていると思われます。角膜神経痛になると昼夜、目の痛みが消えることはありません。

角膜ヘルペス

レーシック手術を受けて角膜ヘルペスに感染する可能性はありませんが、ウイルスにすでに感染している人がレーシック手術を受けると、手術のストレスが契機になり角膜ヘルペスを発症することがあります。フライデーに掲載された「私、レーシック手術で失明しました」記事のKさんがこの事例に当たります。

角膜拡張症(ケラトエクタジア)

エクタジアとも言います。角膜を薄くすることで強度が低下し、眼圧に負けて角膜が突出して変形する病気です。滋賀県のレーシック医師はこれを原発みたいなものと評しています。「特にLASIKに関してですが、確かに、数千例に1例、今は後面も含めた角膜形状解析が進化しているので数万例に1例かも知れませんが、ケラトエクタジアという回復させようのない重大合併症があります。Bは脱原発論者ではないですが、「滅多には事故は起こらないが、起これば取り返しがつかないことになる」原発と少し似ている所がありますね。 」。 ケラトエクタジアが発生するとひどい乱視が起き、視力は大きく低下します。

角膜メルティング

イントラレーシックで使うレーザーのエネルギーにより角膜が融解することがあります。2008年にレーシック手術を中止した北里大学の清水公也・元教授が学会で「LASIKは絶滅危惧種でよいのではないかとか、インレイは角膜のメルティングがあるから駄目だ」と発言したことを名古屋のレーシック医がブログで書いています。

眼以外の不具合: 「身体症状」

レーシック手術の後遺症が原因で「頭痛・肩こり」、「めまい」、「吐き気」、「不眠症」、「うつ」、「顎関節症」、「顔面神経麻痺」、「全身の倦怠感」、「自律神経失調症」などの症状が出る人がいます。しかしレーシックとの因果関係を証明することは極めて困難なため、レーシック医院がその関連を認め、責任を認めることはありません。吉田憲次眼科医の「ササッとわかる近視矯正手術「レーシック」で失敗しない本」にはこう書かれています。

目の調節筋と自律神経は密接に結びついているため、過矯正や不同視が原因で全身症状を引き起こすことがあります。頭痛、吐き気、全身倦怠感といったものから、重度の症状になると、眠れなくなったり、鬱症状を引き起こすことさえあるのです。今まで診察したレーシック難民の過半数がこういった全身症状に悩まされています。そのほとんどの方が、すでに脳外科や内科、神経科で診察を受け、CTやMRI検査を受けて「異常なし」と判断されたり、鬱症状に対して抗うつ剤や精神安定剤を処方されています。しかし、根本的な原因が解決されていないため、当然ながら状態は改善しません。一見レーシックとは関係ないように思えても、手術後に突然全身症状が現れた場合は、手術との関係を疑うべきです。
(吉田憲次「ササッとわかる近視矯正手術「レーシック」で失敗しない本」, p.90)

レーシックの後遺症がもたらす最悪の結果は「自殺」です。レーシック手術に失敗して自殺した事例は国内外で報告されています。

弟がこの世から旅立ちました。
弟が亡くなって約1週間…。気持的に少し落ち着きが出てきたので、この数日を振り返って日記に残そうと思います。

「お母さん、いろいろと心配かけたけどもう大丈夫! 手術できたから安心してね!! ほんと、ありがとね!!」
そう笑顔で、母に語ったらしい。
母いわく、この時の笑顔、そして「ありがとう!」なんて言ってくれたのは、何時以来だろう…と、心の底から喜んだそうだ。
「これから、この子の人生が開けます様に」。
きっと、そう願っていた事だろう。
しかし、この手術の約3週間後に、弟は命を絶つ事になる。
レーシック手術の後遺症で悩み、そして首を吊って自らの命を絶ったのだ…。
http://pirori2ch.com/archives/1752764.html

助けてください。20歳の大学生です。
先日まで、ごく普通の大学生として、毎日楽しく暮らしていました。

今日や明日、自殺を決行してしまいそうです。。。

とっても幸せに生きてきた。大好きな家族もいる。
あまりに酷すぎる視界で、どこか現実感がなく、他人事のように感じている。。。
いまだに、レーシックを受けたことが夢であるような気がしています。。。

ただ、普通の大学生だった。
大学の勉強もあるし、世界中を旅する夢もあった…たくさんの夢と未来がありました。
ここで死ぬのはとても悔しい。頭では、こんなことで死ぬなんて悔しい、と拒否し続けてきたのですが、身体がもう耐えるのに限界です。。。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1272072602

後の方は大学を退学せざるを得なくなりますが、周りのサポートもありなんとか自殺を思いとどまっているようです。2人がどこのクリニックでレーシック手術をしたかはわかっています。

次回以降

レーシック手術はこのような様々な後遺症のリスクがありますが、2007年から2008年頃にはレーシックブームが起き、年に50万人もの人が20~40万円もする手術を受けました。平均手術代を30万円とすると1年で1,500億円の売上があった換算になります。なぜそれほど多くの人が失敗するリスクのある手術を受けたのでしょうか。そして、なぜレーシックを受ける人が2014年以降に激減し、レーシックビジネスは崩壊したのでしょうか。

本稿は5回に分けて連載します。次回は「2012年以前─レーシックビジネスの隆盛」です。2012年以前にレーシックビジネスが成功をおさめた理由を探ります。第3回は「2013年の転換点─本田圭佑と三谷英弘」です。消費者庁が同年になぜレーシックに注目するようになったか分析しますが、そこでの最重要人物が本田圭佑と、当時「みんなの党」の衆議院議員であった三谷英弘の2人です。第4回は「レーシックビジネスの崩壊─坪田一男と竹内薫」です。2008年に銀座眼科の集団感染事件が起きると、慶應義塾大学教授の坪田一男の主導で「安心レーシックネットワーク」が発足し、事件の余波が拡大することを防ぐのに成功します。しかし、「2013年12月4日」危機では対応を見誤り、レーシック医師は消費者庁批判に終始し、レーシック手術の安全性を強調するばかりで、レーシック難民の存在さえも否定します。そうすることで、一部美容外科系のレーシッククリニックばかりに向けられていた不信感はレーシック医師全体に広がり、レーシックビジネスは崩壊します。そこでの中心人物が坪田一男と科学ジャーナリストの竹内薫の2人です。第5回のタイトルは「レーシックの今」です。レーシックビジネス崩壊後も客足が途絶えない品川近視クリニックをとりあげ、レーシックビジネスの本質を探ります。また、「それでもレーシック手術を受けたい」という人が手術先を決める際に注意すべきチェックリストを示します。

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