日本語の「夕方」は英語で何と言うでしょうか。中学英語レベルの質問と感じる人も多いでしょう。中学で、1日は4つに分けられると習ったはずです。
朝 morning
午後 afternoon
夕方 evening
夜 night
weblio辞書にも、eveningは「夕方、夕暮れ…」と訳されています。
でも、eveningは夕方であって、夕方ではありません。英語のeveningは日本語の「夕方」と異なります。まずは日本語の「夕方」の意味についてみてみます。
日本語の「夕方」は何を指すのか
国語辞典を紐解くと、夕方は「日が暮れ始めて夜になるまでの間」と説明されています。夕方は「夕刻」や「夕暮れ」とも言います。「暮れ」とは「日が沈みかけてあたりが暗くなる」ことを指します。太陽が地平線よりどこまで沈んだら夕方、といった客観的な基準はないようです。しかし気象庁は別の客観的な基準を提示しています。気象庁によると「午後3時から6時」が夕方になります。そして午後6時を過ぎると「夜のはじめ頃」に移ります。ということは、「朝のうちは晴れ、夕方からは雨でしょう」という天気予報を聞いて、「雨が降りそうだから今日は定時帰りだ」と言って午後5時に退社したけどすでに雨が降っていた、ということもあるのですね。
放送局では「日没前後の各1時間ぐらいの合計2時間ぐらい」を夕方と呼ぶそうです。こちらの定義は実感に即しています。天文学的には日没の35分前から日没後35分までの間を「夕方」と定義しています。「日没」は「日の入り」とも言います。「日の入り」は語感から太陽が少しでも地平線の下に行った状態と思いがちですが、太陽が地平線上に少しでも見えたら「日の入り」とは言いません。太陽の上のヘリが全く見えなくなった状態が日の入りです。英語ではsunsetです。sunset後にtwilightが始まり、twilightの終わった時点がduskです。duskが来れば翌日にdawn (夜明け)が来るまでnight (夜)となります。sunsetとdusk、dawnとsunriseの間の角度は18度となっています。
夕方を時間で定義できないのは、季節により日の入りの時間が変わり、また、場所によって異なるからです。「日の出」「日の入り」 札幌と石垣島でこんなに違う!!によると、東京の「日の入り」の時刻は冬至では16時31分、夏至では19時00分と2時間29分も違います。石垣島では冬至の「日の入り」は18時00分なので東京─石垣島間で1時間29分の差があります。私も冬の時期に福岡から東京に行くと、午後5時前に暗くなってびっくりすることがあります。このように「夕方」とはどんなに客観的に定義しようとしても、時と場所によりそれが当てはまる時間帯は変わってしまいます。
英語の「イブニング」は何を指すのか
では「夕方」の対訳とされるeveningを何を指すのでしょうか。Cambridge Dictionaryにはthe part of the day between the end of the afternoon and night、つまり「午後の終わりと夜の間の頃」と説明されていますが、Longmanではthe early part of the night between the end of the day and the time you go to bed (「日中の終わりから就寝するまでの間の夜の早い頃」)と定義されています。Cambridgeではeveningが終わってからnightが来ますが、Longmanではeveningの終わり頃とnightの初め頃は交わります。この意味の違いをどう理解すべきでしょうか。
eveningには2種類の意味があるためのようです。Dictionary.comには
- the latter part of the day and early part of the night
- the period from sunset to bedtime
という2つの意味が載っています。The American Heritage Dictionaryでは
- The period of decreasing daylight between afternoon and night
- The period between sunset or the evening meal and bedtime
と定義されています(bedtimeは「就寝時刻」)。つまりeveningには、①「午後」から「夜」の間の空の明かりが暗くなっている時間帯、②日が暮れて夕ご飯を食べてから就寝するまでの時間、という2つの意味があります。ここで「夜」の意味のnightはthe period of time between the sunset and the sunrise、つまり「日の入り」から「日の出」までの時間を指します。nightの反意語はdayもしくはdaytime(日中)です。 夕方と同じく、日没の時間は場所と季節により異なるのでeveningの始まる時間を客観的に決めることはできませんが、eveningは早くて午後5時、通常は6時頃から午後8時~10時頃までとなります。eveningの終わりは日没して空が真っ暗になるまでというのがありうる一番客観的な指標となりますが、日没が早くて午後6時頃だったりする場合は、日没後もeveningは続きます。日没前に就寝してもeveningのままですが、空が暗くなった後では床に就いたら必ずeveningは終わります。つまり、eveningは、①太陽が沈んで空が暗くなる、もしくは②日常生活の活動が終わり、まったりする、のどちらかで終わりますが、なぜこのように2つの意味があるのでしょうか。おそらく昔は太陽が沈んだ頃には仕事も食事も家事も終えてゆったりしたため、空が暗くなれば活動が終わり、①と②は矛盾しなかったのでしょう。でも今は空が暗くなっても活発に活動することはまれでないので、2つの意味が出てしまったようです。つまり、eveningとは①eveningはsunsetまでであり、外が真っ暗になって活動をやめるとnightだが、②暗くなっても仕事やレジャーを続けているとeveningが続いていると考えてよい、ということです。暗くなって活動を続けている時間帯をnightと呼んでもよいことに注意してください。そのような時間帯はeveningとnightのどちらの単語を使っても構いません。
日が暮れ始める | 日が暮れた後 | |
活動している | evening | evening/night |
活動していない | evening | night |
つまり、日が暮れても夕ご飯中だったり、パーティーを開いていたらeveningが続いていると考えてよいわけです。スポーツジムに通ってもeveningでオーケー。日が暮れた後に就寝したら完璧にeveningは終わりますが、夜に居間でゆったりテレビを視聴する時間はeveningではなくnightと考える方がよいでしょう。ちなみにアメリカの多くの病院では、evening shiftsは午後3時から午後11時まで、night shiftsは午後11時から午前7時までとなります。午後6時頃になると挨拶もGood afternoonからGood eveningに変わりますが、仕事場や学校から家に戻る時の別れのあいさつの場合はGood eveningとは言わずにGood nightと言いましょう(もちろんSee youやGoodbyと言ってもかまいません。)
夕方とeveningの使い分け
このように日本語の「夕方」と英語のeveningは意味が異なります。日が暮れたら「夕方」は必ず「夜」に移行しますが、日が暮れた後でもアクティブな活動をしている場合はnightではなく、eveningと呼んでかまいません。では、「夕方」はなんと訳せばよいのでしょうか。「夕方」をlate afternoonもしくはearly eveningと呼ぶよう指導しているサイトがいくつか見られます。
文脈によってはそういう表現をしてもかまいませんが、英語を実際に使っている時は日本語の「夕方」の感覚を忘れて、afternoon, evening, nightの使い分けをしましょう。日本語でも「午後の遅い時間」や「夕方の早い頃」といった表現はそんなにはしないと思います(する必要がある場合は、「午後●時」、「夕方の●時頃」と言う方が正確です)。英語でもearly eveningやlate eveningといちいちeveningのいつかを細かく説明することはほとんどないと思います。
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