英語で算数はarithmetic、数学はmathematics
受験英語で皆そう習います。ためしに「システム英単語」と「DUO3.0」でarithmeticを確認したらどちらも「算数」と訳されていました。
日本では小学で習うのが「算数」で、中学からは「数学」ですが、実はアメリカでは科目名が変わりません。小学でも中高校でもmathematicsです。「算数」をarithmeticと訳すると誤訳になることがあるのでで注意する必要があります。以下、算数と数学の違い、arithmeticとmathematicsの違いについて見てみます。
日本語の「算数」と「数学」の違い
数学とは「初等教育(小学校など)過程における算数を引き継ぎ、さらに高度な数理的な考え方を身に付けることを目的とした教科である」(wikipediaより)。それに対して算数は、①日本の小学校での教科の一つである初等数学、②数量の計算、という2つの意味があります。小学校の算数で習う項目は「数」、「計算」、「図形」、「量」、「関数・統計」の5つです。
数: 数直線、少数、分数、偶数と奇数、倍数、約数、比
計算: 四則演算、筆算、そろばん、電卓、統合と不等号
図形: 多角形、円、柱体、球、展開図
量: 長さ、角度、重さ、時間、面積、体積、速さ
関数・統計: グラフ、割合、平均
算数と数学の一番明確な違いは、「算数は小学校で習い、数学は中学校以降で習う科目」ですが、習う内容については具体的にどう異なるのでしょうか。
多くの小学生が思うこの疑問に対して、様々な回答が用意されています。
①算数では負の数を扱わないが、数学では負の数を使う。
「ちなみに算数との違いは、計算式において文字および負の数を扱うか否かの違いである。それに伴い教科「数学」では方程式を本格的に扱うことになる」(wiki)
「算数と数学の教科としての違いを述べるなら、計算式を使うとき負の数を使うか、使わないかの違いにあります。この負の数を使うことによってどのような違いが生じてくるのでしょうか? それは負の数が出てくることによって方程式を本格的に使うようになってくることです。」(楽A)
「算数から数学になってはじめに学習するのはマイナスの世界です。これまでは数直線の左端(ひだりはし)は0でしたが,数学になると0よりも小さい数(マイナスの数・負の数)もあつかうようになります。数直線上では0が真ん中にくるということです。数の世界が一気に2倍に広がりますね。」(カッシー先生)
②数学では文字を使う
「算数と数学では,大きくあつかう数の範囲(はんい)が広くなることと,文字の利用の2つの点が異なります。…数学の世界ではxやyといった文字が主役になります。こうすることで,算数ではあつかえなかった難しい問題を解くことができるようになります。」(カッシー先生)
「算数と数学では,扱う数の範囲が広くなることと,文字の利用の2つの点が異なるようです。」(En道豆)
③算数は日常的・具体的で、数学は非日常的・抽象的
「「数学」は、抽象的、空想的、非日常的な世界です。よって、負の数(マイナス)を使ったり、平方根(ルート)を使ったりして、実際には存在していない世界を、存在するものとして扱っています。…「算数」は、具体的、現実的、日常的な世界です。よって、常に現実世界との対応が求められます。…これをまとめると「数学には証明があり、算数にはない」となるのでしょうか?「算数」は、数を「使えるようにする」学問で、「数学」は、数を使って「調べる」学問だとも言えます。」(株式会社NTO)
「ただし、中学校以降の数学がやや観念的、抽象的であったり、専門的な職業で用いるような応用をにらんだカリキュラムになっているのに対し、小学校の算数は「日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考える能力を育てるとともに、活動の楽しさや数理的な処理のよさに気付き、進んで生活に生かそうとする態度を育む」ことが目指される。」(wiki)
「算数を学ぶ目的の一つは、大人になり生きていく上で必要な計算やものごとの損得をはかることです。よって、算数に求められるものは答えの正確性。計算結果と、単位や割合の正確性が重視されます。それに対して、中学からの数学では、抽象的なものが対象です。…算数では、生活の中に出てくるような具体的な数量について学習します。そして算数で学んだ知識や操作をもとにして、まだ見ぬ知らない世界のことや日常に体験できない抽象的なことを論理的に推測し、考えてみる。これが数学を学ぶ大きな目的です。」(ホームティーチャーズ)
④算数は答えを得ること、数学では答えを得るためのプロセスが大事
「繰り返しますが、数学は算数とは似て非なるものです。大胆に言ってしまうと、算数では正しい結果を得ることに価値がおかれ、数学では結果そのものよりも、どうやってその結果に達したかのプロセスに価値がおかれます。すなわち算数では計算の正確さが、数学では論理の正しさが求められているのです。」(大人のための中学数学勉強法, p.11)
「要するに! 「算数」→計算力を高めるための学問。「数学」→答えに至るプロセスを追求する学問。」(調べるネット)
「算数は、小学校で習得するが、「正しく計算をする」ことに重点が置かれている。…数学は、中学校から始まるが、「そこの解に至るまでのプロセス」が重視される学問である。そこの解に至るまでのプロセスが正しければ、計算が間違っていても減点になるのみで、0(ゼロ)点になることはない。その代わり、考える力が求められるので、算数のような暗記は通用しない。」(2つの違い事典)
このように算数と数学の違いについていろんな説明がなされているのですが、どれも事後的な説明の感は否めません。事後的というのは、現状では算数と数学の間にそのような違いがあるからそう主張しているだけであって、その違いが変わればまた算数と数学の違いについての説明が変わるであろうということです。例えば、「算数では負の数を扱わないが、数学では負の数を使う」という主張が正しければ、小学生が授業で負の数を学んだ時点でそれは数学の授業ということになりますが、その場合は「小学校の算数の授業で負の数も学ぶ」ようになったと理解されるでしょう。実際、算数の授業で負の数を扱った頃もありました。同様に、小学校で習う限り「非日常的・抽象的」な項目でも数学ではなく算数となります。また「答えを得るためのプロセス」をしっかり学ぶ算数の授業を小学校でやってもかまいません。そうなると、算数と数学の違いは結局は、
「算数は小学校で学び、数学は中学以降で学ぶ」ということになります。
「算数と数学は何が違うのか」というのはよく聞かれる問いですが、これに対して決まった答えはないようです。いろいろな説は聞きますが、「これだ!」という決定的な答えは聞いたことがありません。そもそも内容の違いで算数と数学を区別しようというのが無理なのではないでしょうか。現に、指導要領が改訂されるたびに算数の内容が数学に上がったり、数学の内容が算数に下りたりしているのですから。算数、数学というのは内容を区分したものではなく、単なる学習段階の区分だということです。問うのであれば、なぜ数学は小学と中学で名前を変えることになったのかと問うのが本当でしょう。
(シリーズ・算数と数学の教え方)
算数は「数学の入門編とも位置付けられる。算数と数学は名称は異なるものの、本質的な違いはないが…」(wiki)
「結論を言うなら,「学校教育法施行規則」という文部科学省令で,『小学校の教育課程は、国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭及び体育の各教科(以下この節において「各教科」という。)、道徳、外国語活動、総合的な学習の時間並びに特別活動によつて編成するものとする。』 『中学校の教育課程は、国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭及び外国語の各教科(以下本章及び第七章中「各教科」という。)、道徳、総合的な学習の時間並びに特別活動によつて編成するものとする。』というように,教科の名前が別の名前で決められているからにすぎません。」(知恵袋)
「つまり、算数がまずあって、小学校ではそれを教える…ではなく、小学校がまずあって、小学校で教えることは算数と呼ぶ…というわけです。また、小学校で教える算数の内容は、文部科学省が学校教育法等に基づき、学習指導要領という形で基準を示します。ですから、算数と数学の違いは、名前も内容も法的に決められています。学習指導要領はおよそ10年毎に変わるので、内容面での違いもその都度、変わることになるでしょう。」(かきしちカンパニー)
英語のarithmeticとmathematicsの違い
mathematicsはthe study of numbers, shapes, and space using reason and usually a special system of symbols and rules for organizing themを意味します (Cambridge Advanced Learner’s Dictionary)。「数学」をmathematicsと訳してまったく問題がありません。では、「算数」の訳語として使われがちなarithmeticは何を意味するのでしょうか。同じ辞書にはthe part of mathematics that involves the adding and multiplying, etc. of numbersと説明されています。etc.の箇所を正確に書くと、… involves the adding, subtracting, multiplying, and dividing…となります。MathMediaにもarithmeticは
(1) the branch of mathematics that deals with addition, subtraction, multiplication, and division,
(2) the use of numbers in calculations
と説明されています。addition, subtraction, multiplication, and divisionは「足し算、引き算、掛け算、割り算」、つまり「四則計算」のことです。(2)は「計算で数字を使用すること」という意味です。整数や有理数の性質を研究するのもarithmeticです。日本語では「算数を学んで次に数学を学ぶ」という風に「算数」と「数学」は別者扱いですが、英語ではarithmeticはalgebra (代数学)、geometry (幾何学)、calculus (微積分学)と同じようにmathematicsの中の一分野扱いになっています。
だから、「算数」をarithmeticと訳するとおかしいことになります。日本語の「算数」は「数学」の一分野ではないし、「算数」の授業では図形や関数などの四則計算以外のことも習います。英語圏では日本の小学校で習う「算数」はmathematicsと呼ばれます。もちろん中学以上になってもmathematicsです。
「算数」をmathematicsと訳してよいか
「算数」がarithmeticでないならば、代わりにmathematicsと訳してよいのか? 私はよいと考えます。ただし日本語の「算数」の語感を残したい場合は、「初等数学」という意味でelementary mathematicsと訳するのがよいでしょう。ただしelementary mathematicsは英語の語感的には、小学校だけでなく中学・高校で学ぶ数学も含まれる可能性があることを留意する必要があります。
Elementary mathematics consists of mathematics topics frequently taught at the primary or secondary school levels. (wiki)
初等数学は、小中学校レベルで頻繁に教えられる数学のトピックで構成されています。
だとすると、mathematics in an elementary schoolのように、ただmathematicsと訳すのでなく「小学校で」という文句をつけ加えるのが一番良い訳し方だと思います。むろん文脈から「小学校」に関する話というのが明らかであればそれをつけ加える必要はありません。
英語は語感が大事なので、英単語は英英辞典を利用し、例文で覚えるようにしましょう。下の記事で例文朗読を通して英単語を覚えるやり方について詳しく述べているのでこちらもお読みください。丸暗記ではなく文脈を通して覚えるやり方だと20分で30個以上の英単語を簡単に覚えられます。