2024年12月スタートの『6カ月で英単語・語法・英文法完全マスター』講座受講生を募集しています。希望者はここをクリック!

伊藤和夫『新・基本英文700選』の間違い

以下の記事の続きです。

あわせて読みたい
伊藤和夫『新・基本英文700選』の古臭さ 下の記事の続きです。 https://www.sanctio.net/700-1/ 『新・基本英文700選』の際立った特徴は英文の解説がほとんどないことです。そのため疑問点があったときはほかの...

700選は右ページに和文、左ページにその英訳である英文が載っています。700選学習者が目指すのは、右ページの日本文を見て左ページの英文がすらすら言えるようになることです。それは多大な労力を要しますが、700選ユーザーはその意義を信じ、必死でこの作業を行います。無駄な作業とはわからずに。

700選の主要目的は重要な英語構文を習得することです。であれば全訳しようとせずに、その箇所だけ「すらすら言える」ようになればよいわけです。例えば、副詞節の構文として

488. He has been devoted to the study of the Holocaust and genocide ever since he graduated from Harvard University.
彼はハーバード大学を出てからずっと、ホロコーストおよび大量虐殺の研究に没頭している。

という英文が出ていますが、太字が覚えるべき重要箇所であれば、和文を読んで英文すべてを言えるようになるのではなく、和訳なんて気にせずに
He has been devoted to the study of the Holocaust and genocide _____ _____ he graduated from Harvard University.
の下線部に入る単語をソラで言えるようになりましょう。それで十分、目的は達せられます。

英語の構文をマスターするために、日英翻訳や日英通訳をする必要はまったくありません。逆に英語学習に日本語を不必要に介入させるのは、英語の語感の習得の邪魔になります。和訳に頼ることなく英語の例文を使って重要語を習得するためには、それができる英文を使わないといけません。①重要語(単語、熟語、構文、英文法項目のいずれでもかまいません)が含まれ、②重要語が文の後の方に出てきて、③文の長さが短すぎず、長すぎずで、20ワード前後、というのが適した英文です。

英文が短すぎると、文脈がつかめず下線部に入る重要語が何か思い出すのが困難になります。また、重要語が文の最初の方に出てくると、後の箇所を読まないと重要語が何か思い出せないので英文を朗読しづらくなります。例えば700選の
484. As science makes progress, old ways give place to new.
という例文ですが、一番最初に重要語のasが出てきます。これだと文章を読みながら重要語が何か推測できないので
Old ways give place to new as science makes progress.
とした方が、簡単に重要語を思い出すことができます。

和訳に頼った英語学習は早急にやめてください。時間の無駄であり、かつ英語の語感習得の邪魔になります。以下の記事でその問題点を説明していますので、興味のある方はお読みください。

あわせて読みたい
大学受験英語対策講座─6カ月で英単語・語法・英文法完全マスター 『大学受験英語対策講座─6カ月で英単語・語法・英文法完全マスター』 大学合格に必要な英単語(4555語)、英熟語(1675語)、語法、英文法を6カ月で習得する講座です。暗記...

『新・基本英文700選』の問題点は多岐にわたりますが、一番ひどいのは悪文が多いことです。以前、この本に出てくる英文をGoogle in Englishでググったことがありますが、検索に引っかからない英語表現が多数出てきました。英米人がまったく使わない表現だから検索に出てこないわけですが、そんな英文を丸暗記して何の意味があるのでしょうか。『基本英文700選』は発売当初から、使いづらい参考書として知られていましたが、それでも名文だらけの例文集、英語の達人を目指すならば必ずクリアしなければならない参考書として、受験生の間では畏敬の目で見られてきました。でも名文ではなく迷文だったわけです。

では、『700選』に出てくる文章でとくにおかしなものを見てみます。700選を熟読すると、いろんな間違い方にも4つのレベルがあることがわかります。レベルが高くなるほど、問題も大きくなるので「700選」の利用者はより気をつけてください。

目次

レベル1: 変な日本語

伊藤和夫氏は『予備校の英語』という本の中で、われわれが英語を学ぶ最大の目的は英語を習得することではなく、「外国語教育の最大の目的は日本語の理解と運用力を高めることにあると考える」と述べています。とは言いながらも、「700選」には不自然な日本語の文章がよく登場します。例えば以下の文章。

232. われわれは過ぎし日のことを、かならずしも愛情とは言えないまでも少なくとも一種の憧れをもってふりかえるのである。

363. 私は早起きして朝食前に1時間ほど散歩する習慣であった。

393. ロンドンでみんなが気づくほど地震が感じられたのは、最近ではいつのことか、それを覚えている人は、今日では少ない。

444. 美しいということは、無視することがほとんど不可能な推薦状のようなものである。

523. 私はどんな女の子とも無邪気に話をすることができなかったが、それは彼女のボーイフレンドが突然現れて、私をとがめることを恐れてのことであった。

大学入試の英文和訳の問題でこんな和訳をしたら減点されますよ。

レベル2: いまいちな英訳

和文の英訳として間違いとまでは言えないが、表現が冗長的であったり、適訳がほかにあるのにという英文が700選には数多く出てきます。ここでのそのいくつかを紹介します。

7. One night he came home very tired and sad
ある晩彼は、すっかり疲れ憂鬱になって帰ってきた。

「憂鬱になって」はsadではなくてdepressedです。

23. While cleaning my room yesterday evening, I happened to find an old photography of my mother.
昨晩部屋を掃除しているうちに、たまたま母の昔の写真が出てきた。

「昨晩」はyesterday eveningではなく、last nightと言いましょう。

37. You can go on a picnic if you like, but as for me I prefer to stay at home and read a novel.
よろしかったらピクニックに行っていいですよ。でも私としては、家にいて小説でも読む方がいいです。

「私としては」という意味のas for meが非常にウザイです。 英文を直訳すると「私としては私は家にいて小説でも読む方がいいです。」となりますが、 「私としては私は」という言い回しがウザく感じませんか? Iという主語があるのでas for meは不必要です。

56. The child must be taught to respect the truth and to tell the truth.
子供には、真実を尊重し真実を話すように教えなければならない。

英語は特に理由がない限り能動態で表現することが好まれます。日本人が書いた英文はネイティブにはムダに受動態が多い文と見られることが多いです。また、the truthが繰り返されてセンスのない文章になっています。
➡We must teach children to respect and tell the truth.

72. He soon got accustomed [used] to dormitory life and made two or three friends.
彼はまもなく寮生活にも慣れ、友人も2, 3人できました。

「2, 3人の友人」はtwo or three friendsではなく、a few friendsと訳しましょう。two or three friendsと言うと、数字が出てくるので友人の数が何人なのかに焦点が当たります。そうではなくて、ポジティブな意味合いで、多くはないけど少しは友人ができたよ、という意味で「友人が2, 3人できた」と言っているのだから、a few friendsの方が適訳です。

83. Mother is more anxious about the result of the examination than I am.
私よりも母の方が試験の結果を心配している。

motherは可算名詞です。家庭内では自分の母親を固有名詞的にMotherと言いますが、ここでは人称代名詞をつけてMy motherとした方がよいです。

142. The question is not so much what it is as how it looks.
問題は、その本質よりもむしろ外観である。

370. It is a very good idea, but the question is how to carry it out.とてもいい思いつきだが、問題はどうやってそれを実行するかである。

ここでの「問題」はquestionではなくてproblemです。

175. It is a matter for congratulation [a matter of joy] that no human lives were lost in the accident.
その事故で人の命が一つとして失われなかったことは、喜ばしいことである。

「喜ばしいこと」の「こと」をa matterと訳する必要は一切ありません。700選ではIt is a matter for congratulation [a matter of joy] thatの箇所が太字になっているのでこの箇所が重要構文扱いなのでしょうが、こんな表現に実際に接することはまずないので覚える必要は「まったく」ありません。
➡We are pleased that nobody died in the accident.

178. I owe it entirely to him that I have thus far succeeded. 
私がここまで成功したのはまったく彼のおかげである。

thus farは「これまでのところ(=until now)」という意味のイディオムです。I have thus far succeeded. は「私はこれまでは成功していた」という意味にとられるでしょう。

181. It is the audience which really determines both the matter and manner of every broadcast.
すべての放送の内容も方法も、実際に決定するのは視聴者である。

the matterは「内容」と訳せないこともないですが、「内容」は素直にthe contentと訳しましょう。また「方法」(=method)をmannerと訳すのは間違いです。
➡It is the viewers who actually decide the content and methods of all broadcasts.

221. I take it that we are to come early. 
私たちは早く来なければならないと思う。

700選のユーザーは I think we must come early. をI take it that we are to come early. と言うのか。

ばかな人たちだなあ(´・_・`)

223. We must consider the question whether we can afford such huge sums for armaments. 
軍備のためにこのような巨額の支出が可能かどうかという問題を考えてみる必要がある。

「このような巨額の支出が可能である」がwe can afford such huge sumsと訳されていますが、「支出」はexpenditureと訳す方がわかりやすいです。また、mustよりもneed to、the question whetherよりもthe question of whetherの方がより順当な訳かと思います(前者でも間違いではありません)。
➡We need to consider the question of whether such a large expenditure is possible for armaments.

234. He was, which was rare for him, in a bad temper. 
彼は珍しいことだが、かんしゃくを起こしていた。

関係代名詞whichが後に出てくるa bad temperにかかっている文章ですが、先行詞が関係代名詞よりも後に来るとわかりにくくなるので先行詞は関係代名詞の前に置くようにしてください。またin a bad temperは「機嫌が悪い」という意味です。不機嫌な人がかんしゃくも起こしているかどうかはわかりません。
➡He had a tantrum, which is unusual.

245. Education of children by their parents is sometimes very difficult.
親が子供を教育することは非常に困難な場合がある。

「親が子供を教育すること」をeducation of children by their parentsと訳するのは硬すぎます。 例文239-256に名詞構文を使った例文が登場しますが、名詞構文で表現した方がよい必然性のない英文ばかりです。
➡It can be very difficult for parents to educate their children.

357. I do hope I shall be able to enter this school this time and enjoy a happy school life.
今度はこの学校に入ったら愉快な学生生活が送れるように心から願っている。

和文で「私」が願っているのは「愉快な学生生活が送れる」ことですが、英文では「この学校に入る」ことも願っています。そうではないのでは?
➡I sincerely hope that I can have a pleasant student life when I enter this school next time.

380. Studying abroad is a good chance for us to learn a great deal about other countries.
留学は、私たちが外国についていろいろなことを学ぶよい機会である。

「よい機会」はa good chanceではなくa good opportunity、「外国」はother countriesよりもforeign countriesと訳する方が自然です。「いろんなこと」はa great deal、a lot、many thingsいずれでもかまいません。
➡Studying abroad is a good opportunity for use to learn a lot about foreign countries.

441. I am not the man I was when you knew me first.
今の私は、あなたとはじめて会ったころの私ではありません。

「会った」はknewではなくmetです。

445. There is no human disease which gene therapy does not promise the possibility to treat.
遺伝子治療は、人間のあらゆる疫病を治療する可能性を約束する。

無駄に冗長的な英文です。
➡Gene therapy promises the potential to cure all human diseases.

569. The boy more than justified the favorable opinion they had formed of him.
その少年は、彼らが彼を信用したのが間違いでなかったことを十二分に証明した。

わけがわからない英文です。
➡The boy fully proved that it was not wrong that they trusted him.

580. 東京へ来てからこんなにつらい日は初めてです。
This is the most difficult day I have had since I came up to Tokyo.

伊藤和夫氏はcome up to Tokyo (「上京する」という意味?)という表現が大好きなようで、700選には4回も登場するのですが、普通そんな言い方をしません。come to Tokyoと言いましょう。

618. Yesterday it was neither too warm nor too cold. It was an ideal day for taking a walk.
昨日は暑くも寒くもなくて、散歩には打ってつけの日であった。

it was neither too warm nor too coldは「暑くもなく寒くもなく」ではなく「暖かすぎず、寒すぎもなく」という意味になります。
➡Yesterday was neither hot nor cold, so it was a perfect day for a walk.

620. What with fatigue and (what with) lack of sleep, he has fallen ill at last.
過労やら不眠やらで、彼はとうとう病気になってしまった。

fatigue(疲労)は「過労」という意味ではありません。「不眠」はlack of sleepでもかまいませんが、insomniaという単語を使えたらもっと良いです。
➡He finally fell ill due to overwork and insomnia.

658. He went over to America for the purpose of studying medical science.
彼は医学を研究するために渡米した。

overが不必要です。went to Americaと言いましょう。

700. Meiji was beaten by Keio by a [the] score of three to five.
明治は5対3のスコアで慶応に敗れた。

日本語では「明治」と「慶応」が大学ということが容易に推測できますが、だからといってそれをそのまま英訳してよいということにはなりません。英文ではちゃんとMeiji UniversityとKeio Universityと書きましょう。

レベル3: ほとんど使わない英語

700選にはネイティブでもあまり使わない表現が数多く出てきます。例えば、以下の例文です。

99. You can depend on the timetable to tell you when trains leave. 
時刻表を見れば発車の時間がわかります。

depend on A to doは「Aに頼って~してもらう」という意味なので上記の英文ができあがったようですが、こんな変な英語をしゃべるネイティブはいないでしょう。なぜ
You can know the departure time by looking at the timetable.
とわかりやすく言えないのでしょうか。depend on the timetableという表現は普通に使われますが、その場合「予定表しだいである」という意味で使われます。
A spokeswoman said the detailed timing of Mr Darling’s departure would depend on the timetable set by the Labour Party for the leadership election.
だと、「Darlingという政治家がいつ職を辞するかは、労働党の選挙日程にかかっている」という意味になります。

193. For better or worse, there is nothing for it but to leave the matter in his hands. 
よかれあしかれ、この問題は彼にまかせるほかはない。

there is nothing for it but toなんて長ったらしい構文を使う必要はありません。
➡For better or worse, we can only leave this matter to him.

220. Things have come to this, that he cannot support his family.
事態は、彼が妻子も養えないというところまで来てしまった。

「thisはthat以下を指す」のだそうです。 よい子はこんな変な文章を書かないようにしましょう。
➡The situation came to a point where he could not support his wife and children.

232. We look back on days gone by if not always with affections, at any rate with a kind of wistfulness. 
われわれは過ぎし日のことを、かならずしも愛情とは言えないまでも少なくとも一種の憧れをもってふりかえるのである。

if not A, at any rate Bが「Aではないまでも、すくなくともB」という意味の構文なのだそうです。知らんがな、そんな言い回し。at least B, if not Aと言えばいいだけのことじゃん。

323. Go where you will in Holland, you will see windmills. 
オランダでは、どこへ行っても風車が見られる。

ネイティブにこういう表現を実際に使っているか尋ねたら、おそらく100人中99人がNoと答えるでしょう。簡単に表現できるのにわざわざ難しく言うのが700選の特徴です。
➡In the Netherlands, windmills can be found everywhere.

325. Let your occupation be what it may, you will not succeed in it, unless you devote yourself to it. 
どんな職業であろうと、それに専念しなければ成功しない。

“Let * be what it may”でoccupationを外してググったら(つまり、*にoccupation以外の単語が入る“Let * be what it may”を検索)、4件しか検索されませんでした(12/31/2019)。こんなにググれない表現は使わないようにしましょう。

338. Who should come in but the very man we we talking of?
入ってきたのは誰かと思えば、私たちが噂をしていた当人だった。

Who should ~ but…は「~したのは意外にも…であった」という意味の構文だそうです。ネイティブに尋ねたらたぶん10人中10人が「そんな構文知らねーよ」と返答するでしょう。
➡The person who came in was the one we were talking about.

346. Father says I may go on to university, so I think I will prepare for the entrance examination. 
父が大学へ進学してもいいというので、入学試験の準備をするつもりです。

「大学に進学する」はgo on to universityではなくgo to university (もしくはgo to college)と言ってください。また伊藤和夫氏はこの文のmayを「許可」(~してもよい)という意味で使っていますが、I mayだと「私は~かもしれない」という意味にとられます。I may..はI can…に変えてください。
➡My father says I can go to university, so I’m going to prepare for the entrance examination.

413. Old and physically handicapped, he had courage enough to do the work. 
年をとり、身体も不自由であったが、彼にはその仕事をする気力があった。

「譲歩(Though he was old and physically handicapped)」の分詞構文というわけでしょうが、分詞構文は譲歩の意味ではあまり使われません。「譲歩」の意味を表す分詞構文を使う場合は、Admitting that~もしくはGranting that~のいずれかを使うのみに限定するのが無難です。ちなみに『実践ロイヤル英文法』(p.170)は譲歩の意味で分詞構文を使う場合はwhileをつけるよう指示しています。

414. A strange fellow, he never speaks unless (he is) spoken to. 
奇妙な男で、彼は人から話しかけられないと口をきかない。

分詞構文のBeing a strange fellow (奇妙な男なので)のbeingが省略された形ですが、こういう英語はネイティブでもまず書かないので、英語で小説を書こうと思っていない限り、このような奇抜な英文は書かないでください。また「人から」が英訳されていません。
➡He is a strange man. He never speaks unless spoken to by others.

415. Their conversation being in Chinese, I did not understand a single word. 
彼らの話は中国語だったので、私にはひと言もわからなかった。

分詞構文の主語が本文の主語と違う独立分詞構文の文です。Their conversation being in Chineseを元に戻すとSince their conversation was in Chineseとなりますが、これでは意味が通じません。

463. Reading is to the mind what food is to the body.食物が身体の栄養となるように、読書は精神の栄養となる。

「A is to B what C is to D」は 「AとBとの関係CとDとの関係に等しい」という意味の構文です。今でも使われますが、めったに出てこないのでこの構文を使って英文を書けなくても特に問題はないです。Just as food nourishes the body, reading nourishes the mind. と簡単に表現できます。ちなみに伊藤和夫氏は「私の英語教授法─「英語教師のための夏季セミナー」(研究社英語センター主催1987年8月4日)」(伊藤和夫『予備校の英語』に収録)で山崎貞の『新々英文解釈研究』をこき下ろしてこう述べています(pp.190-1)。

以上を前提にした上で、文法についてまず申し上げたいのは、文法の全体を見直して当面不用なものを切り捨てる必要についてであります。山崎貞氏の『新々英文解釈研究』を私がどう評価しているか、それが現在でも受験の英語にどういう影響を与えているかについては、すでにお話ししましたが、同書に取り上げられており、中心項目として詳しい説明を与えられているような熟語、過去の受験英語の中心をなしていたような熟語の多くは、現代の英語からはすでに姿を消しかかっています。たとえばCome what may, I will do it. (何が起こっても私はそれをするつもりだ)のような、動詞の原形が節の先頭に出てできる譲歩構文は、節の全体が一つのIdiomになっている場合を別にすれば、このパターンの中で新しく単語を入れかえて、自由に新しい表現を作り出してゆくことができないという意味で死んだ構文になっていますし、A is to B what C is to D. (AとBの関係はCとDの関係に等しい)にしても同様であります。現在でも、受験参考書や文法書で取り上げられることの多い I had scarcely run out of the building when it exploded. (私が外へ飛び出したと思う間もなく、その建物は爆発した)に見られる scarcely… when (…するや否や)などという熟語も、こういう例文を特別に集めたテキストを教えるのでないかぎり、普通の英文を読んでいてもほとんど目にすることがないのであります。

あの~伊藤先生、700選にはA is to B what C is to Dも scarcely… whenのいずれも「基本英文」として収録されているのですが…。

517. For all you say, I still believe in the truth of the theory.
あなたがなんと言おうと、私はやはりその説が正しいと思う。

for allはdespiteを意味しますが、前置詞なのでその後は名詞か代名詞などの名詞相当語句でないといけません。伊藤氏はおそらくfor all thatのthatが省略された形と考えているのでしょうが私はfor all you sayという表現を今まで一度も聞いたことがありません。
➡Whatever you may say, I still think that theory is correct.

522. Even granted that he was drunk, his conduct cannot be excused. 
酔っていたとしても、彼の行為は許せない。

これも譲歩の分詞構文ですが、Even if he was drunk…という表現を使えばいいだけのことです。一生の間にEven granted that…という言い回しを実際に聞く可能性は1%もないでしょう。

527. 泥棒が手袋をはめていたために、指紋は発見できなかった。
The burglar wore gloves, with the result that there were no fingerprints found.

becauseを使って、No fingerprints were found because the thief was wearing gloves. と言いましょう。ライティングでwith the result thatという熟語を使えるようになる必要性はゼロです。

529. 金持ちか貧乏かによって、ものの見方が違うものだ。
We see things differently according as we are rich or poor.

700選のコメントには「according asは接続詞句、according toは前置詞句」と説明されていますが、according toだけ使えるようになりましょう。according asについて『実践ロイヤル英文法』(p.255)では「聖書などによく見られる古い感じの句だが、《英》の改まった文では今も使う」と説明されています。つまり、それ以外では使うなということです。
➡The way you see things depends on whether you are rich or poor.

559. Nations are not to be judged by their size any more than individuals.
国家も個人と同様に、その大きさによって評価すべきものではない。

比較級の構文を使う必要はありません。
➡A nation, like an individual, should not be evaluated by its size.

578. I do not love him the less for his faults.
彼には欠点があるが、それでもやはり私は好きだ。

比較級の構文を使う必要はありません。
➡He has drawbacks, but I still love him.

592. I was not in the least surprised, for I had fully expected as much. 
その程度のことは百も承知だったから、私は少しも驚かなかった。

in the leastはat allのように否定文で用いて、否定を強める働きをしますが、not at allと異なり、めったに使われません。また I had fully expected as much. という表現を聞いたことがありません。
➡I wasn’t surprised at all because I knew enough about that.

602. One cannot read a good book without being so much the better for it. 
良書を読めば必ずそれだけの効果がある。

非ネイティブは二重否定の文を書けなくても大丈夫。Reading a good book will always do you good. と言えばいいだけのことです。 “without being so much the better for it” という表現を聞いたことがありません 。ググっても700選の例文以外まったくひっかかりませんでした。

616. The Siberian Railway is at once the longest and best known railway in the world.
シベリア鉄道は、世界で最も長くかつ最も有名な鉄道である。

at once A and B (Aであると同時にまたBである)なんて構文を使うことってあるんですかねえ。
➡The Siberian Railway is the longest and most famous railway in the world.

626. As food and drink are to animals, so are rain and sunshine to vegetables.
動物に食物と飲物が大切なように、植物には雨と日光が大切である。

伊藤氏はAs C is to B, so is A to Bという構文はA is to B what C is to Dの構文と意味が同じ(AとBとの関係はCとDとの関係に等しい)と説明していますが、私はこの構文を使った英文を見たことがありません(ちなみにA is to B what…の構文はほとんど使われませんが、まったく使われないというわけでもありません)。こんな構文を使わなくても、上の和文は簡単に英訳できます。
➡Just as food and drink are important to animals, rain and sunlight are important to plants.

レベル4: 英語の間違い

700選にはネイティブチェックを受けたらほぼ確実に訂正されるであろう英文が多数見受けられます。

4. It is a pity that a man of your ability should remain unknown to the world.
あなたほどの才能の持ち主が世間に知られずにいるのは惜しいことです。

この文ではなぜshouldが含まれるのか? 700選には「「当然、意外、遺憾」を示す主節に続く名詞節では、感情の主観的側面を強く出すためにshouldを用いる」(p.82)と説明されています。しかし『実践ロイヤル英文法』には It is a pity that his sister is missing. という文章が出ています(p.380)。Do People Sayという例文サイトでit is a pity thatを検索したところ、19の例文が検索されましたが、shouldが出てくる例文はゼロでした。
https://dopeoplesay.com/q/it-is-a-pity-that

グーグルで “It is a pity that Japan” (「日本が~なのは残念だ」の意)というフレーズを検索して1ページを確認しましたが、shouldが含まれる例文はひとつもありませんでした。
It is a pity that Japan paid no heed to the warnings and admonitions of both its neighbor and of the international community.
It is a pity that [Japan] is following the evil ways of the colonization policies of some distant countries…
It is a pity that Japan has not yet set up an equivalent organization.
It is a pity that Japan now could not control their fate at all.
It is a pity that Japan…does not realise fully the importance of Okinawan culture in.
it is a pity that Japan lags far behind from other countries. 
It is a pity that Japan did not lose as he fought for 120 minutes and luck did not turn to the end of the last. 
It is a pity that Japan has to be constantly reminded of its mistake.
It is a pity that Japan has a low level of respect.

どうもデタラメ解説のようです。

337. Is it any wonder that he should have failed in the examination? 彼が試験に落ちたからといって何の不思議があろう。

同じく 「「当然、意外、遺憾」を示す主節に続く名詞節では、感情の主観的側面を強く出すためにshouldを用いる」(p.82)と説明されている例文です。これもデタラメ解説のようです。Do People Sayで “it it any wonder that” を検索しましたが、shouldが出てくる文はゼロでした。
https://dopeoplesay.com/q/is-it-any-wonder-that

170. Because he is good, it does not follow that he is wise. 
彼が善良だからといって賢いということにはならない。

It does not follow that he is wise because he is good. であればオーケーな文章です。becauseは否定語の支配を受けて「~だからといって」という意味になることがありますが、そういう意味にとれるのは最初に否定の文章が示されているからです。Because he is goodから始まれば、聞き手・読み手は「彼はgoodなので」という意味にとります。そのためほとんどのネイティブはこの文章を「彼はgoodなので、wiseということにならない」と理解します。つまり意味不明の英文だと感じます。返り読みをすればこのbecauseは「~なので」ではなく「~だからといって」という意味だと推測できますが、返り読みしないと意味が分からない文は悪文なのでこういう書き方をしないように気をつけてください。

174. It is regrettable that few people (should) walk today because of the development of traffic facilities. 
今では交通機関が発達したため、歩く人が少ないのは遺憾である。

traffic facilitiesは「交通機関」ではなくて、「交通施設」(all facilities installed to assist the flow of traffic and to maximize road safety)です。ここで発達しているのは「輸送の手段」という意味でしょうから「交通機関の発達」はthe development of transportationと訳しましょう。

207. In late summer and autumn are seen the tints of color, which are the crowning beauty of the plain. 
夏の末と秋には紅葉が見られるが、それは、この平原でもっとも美しい光景である。

「紅葉」がthe tints of colorと訳されていますが、可算名詞のtintは「色合い」(a small amount of color)を意味します。tintに色が含意されているのでof colorは不必要です。なぜこれが「紅葉」と訳されるのかよくわかりません。「紅葉」は日本独特の表現なのでいろんな訳があります
https://www.rarejob.com/englishlab/column/20171009/
。また、the crowning beauty ofという小難しい表現を覚える必要もありません。「この平原でもっとも美しい光景」はthe most beautiful sight on this plainと言えばいいだけのことです。

212. Secondary education has two sides, a classical side and a modern side.
中等教育には2つの面、すなわち、古典を教える面と現代のことを教える面とがある。

「教える」が訳されていません。ここで「すなわち」という意味で前の単語を説明するときは、コンマではなくコロンを使いましょう。説明の後にさらに文が続くときにコンマを使います(e.g., Secondary education has two sides, a classical side and a modern side, in Japanese schools.)。
➡Secondary education has two aspects: teaching classics and teaching contemporary things.

265. More than five years have passed since I came to live in this house.
私がこの家に住むようになってから、もう5年以上になる。

568. In the mountain area snow has fallen more than fifty centimeters deep.
山間部では雪が50センチ以上降った。

more than Aは「Aより多い」という意味なので、Aを含む「A以上」ではありません。厳密に訳す必要がない場合は「以上」の訳にmore thanを当ててかまいませんが、そのあたりの説明がまったくないのは英作文の参考書としては不親切すぎます。状況によっては確実に誤訳になります。例えば、It is difficult to have more than two friends. は 「2人までだったら友だちを作るのは難しくない」を含意しています。だから 「2人以上の友人を持つのは難しい」と訳すと誤訳になります。

276 Though this is a bulky book with over 1,000 pages, I will have read it through by a week from today.
この本は1,000ページ以上の大冊ですが、来週の今日までには読み終わります。

overはmore thanと同じく「~を超えて」という意味なので、over 1,000 pagesだと1,000ページを含みません。だからover 1,000 pagesは「1,001ページ以上」を意味します。また、未来完了を使う必要はありません。I will finish reading it within a week. と言えばよいです。by a week from todayは「来週の今日までに」の訳としては正しいですが、ネイティブはあんまりこういうまどろっこしい表現をしないんじゃないかなあ(でも確証はないです)。

277. You will have seen this photograph somewhere.
あなたはこの写真をどこかで見たことがあるでしょう。

「will+have+過去分詞」は未来完了ですが、未来に完了するはずなのに、すでに見たことがあるというのは何なんでしょうか。willをmustに変えてください。「must+have+過去分詞」は「~したにちがいない、きっと~だったろう」という過去のことに関する推量を意味します。
➡You must have seen this picture somewhere.

281. I was walking in the park, when I heard my name called.
私が公園を散歩していると、私の名前を呼ぶのが聞こえた。

和訳は「私の名前が呼ばれるのを聞いた時、私は公園を歩いていました。」じゃないの? それはさておき、whenの前にコンマを加えてはいけません。従位節が最初に来た文ではコンマを置きますが(When I heard my name called, I was…)、従位節が主節の後に来た複文ではコンマを置きません(I was walking in the park when I heard…)。

306. The same thing, happening in wartime, would amount to disaster. 
同じことが戦時中に起こったら、悲惨なことになるだろう。

分詞構文を外すと、The same thing would amount to disaster.(同じことが悲惨な結果になるだろう)という意味不明の文章になります。
➡If the same thing happened during the war, it would be disastrous.

334. Punctuality is a virtue that should be practiced by those who would succeed in life.
時間を守ることは、成功を望む人々の実践すべき美徳である。

in lifeが和訳されていません。もっと問題なのはwouldです。ここで伊藤氏はwouldを「強い意志」という意味で使っているようです。確かにwouldにはその意味がありますが、この意味のwouldは通常、否定形で使われ「拒絶」を意味します。この文は肯定形なので「人生で成功するであろう人々」(現在の事柄に対する推測)という意味にとられるでしょう。
➡Punctuality is a virtue that should be practiced for those who want success.

403. My room, facing south, is sunny and very comfortable. 
私の部屋は南向きなので、日がよく当たって非常に快適である。

これもセンスのない英文です。「原因・理由」を表す分詞構文が文中に挿入されていますが、facingがmy roomの後に続いているので名詞を修飾する現在分詞と理解され、ネイティブの大半は「南向きの部屋(my room facing south)は日当たりがよく非常に快適だ」という意味にとるでしょう。
➡My room faces south, so it is sunny and very comfortable.

405. Accepting what you say, he might still conceivably have killed in self-defence. 
あなたの言うことを認めたとしても、彼はそれでもひょっとすると自衛のために殺していたかもしれない。

4点問題があります。
①譲歩の意味の分詞構文は慣用句以外ではwhileをつけましょう。②conceivablyは不必要です。
③彼は誰を殺したのでしょうか? killは通常他動詞として使うので目的語が必要となります。自動詞としても使われますが、その場合は Smoking kill. のように無生物が主語になることが多いです。
④self-defenceはイギリス英語です。700選は「綴りはアメリカ英語に統一」したのではないんですか? アメリカ英語ではself-defenseになります。
➡Even if he admitted what you said, he may still have killed a person for self-defense.

516. It is not enough to read great books once only, however carefully. 
すぐれた書物はどんなに注意深く読むにしても、一度読むだけでは充分でない。

「本を一度読むだけ」はread a book once onlyではなく、read a book only onceです。また、however carefullyはその後の単語が省略された形と理解できますが、これではわかりにくいので省略しない方がよいです。
➡No matter how carefully you read a great book, it is not enough to read it only once.

572. Everyone has a right to enjoy his liberty, much [still] more his life.
誰にもみな、生存の権利はもちろん、自由を享受する権利がある。

much moreとhis lifeの間に何かが省略されている文ですが、英文ではa right to enjoyが省略されているという判断しかできません。しかし、和文は「生存の権利」なので、a right to enjoy his lifeではなく、a right to his lifeのa right toが省略されているということになります。和訳を見ずに英文だけを読んで、どうやったらそう判断できるのでしょうか? こういう適当な省略はしないように気をつけてください。
➡Everyone has the right to enjoy freedom as well as the right to life.

607. We should be the last persons on earth to approve of the use of atomic energy for warlike purposes. 
原子力を軍事上の目的に使用することに、われわれは絶対に賛成してはならない。

100人の翻訳者に「軍事上の目的」を訳させたら、100人がmilitary purpose(s)と訳すでしょう。 warlikeは「好戦的な」という意味です。

608. Present supplies of fruit are short of requirements.
現在における果物の供給は需要に及ばない。

「需要と供給」はsupply and demandです(英語では順序が逆になります)。supply and requirementでは決してありません。また、「供給」と「需要」は抽象名詞なのでsupplyとdemandは複数形になりません。
➡The current supply of fruits falls short of demand.

670. Which of the TV programs do you like best? 
テレビ番組では何が一番お好きですか。

正解は
➡Which TV program do you like best?
➡What do you like best on TV programs?

610. The solution of the one may prove to be the solution of the other.
一方が解決すれば他方も解決するであろう。

2つある場合、1つが決まれば残りは1つだけしかなくなるのでotherは定冠詞がついてthe otherになりますが、最初にどちらが特定されるか決まっていないのでoneにはtheはつきません。
➡The solution of one will solve the other.

660. We have established this institute with a view to promoting new researches concerning time.
われわれは時間に関する新しい研究を促進するために、この研究所を設立した。

「研究、調査」を意味する researchは不可算名詞なので複数形にしません。また、 「~するために」はto, in order to, so as toの3つを使えるようになればそれで十分です。with a view toなんてイディオムを使えなくても何も問題ないし、さらに言うと、使わない方がよいです。
➡We set up this institute to promote new research on time.

伊藤和夫氏は句読法の用法がよくわかっていなかったようです。700選ではコロンとセミコロンの両側にスペースが置かれていますが、スペースを置くのは後ろのみです。例えば、224の例文だと temper : a thing… ではなく、temper: a thing…となります。

224. You have caused me to lose my temper : a thing that has hardly ever happened to me. 

308. I went at once ; otherwise I would have missed him. 

609. George has two cousins : one lives in Germany and the other in Switzerland.

611. On (the) one hand I have to work ; on the other hand I have many visitors to see.

613. It is one thing to own a library ; it is quite another to use it wisely.

校正が適当な700選ではコンマの前にもスペースが置いてあったりします。もちろん間違いです。

652. We are going to give a reception in honor of Mr. Clark , who came to Japan the other day.

700選は日付の書き方もおかしかったりします。

182. It was on the morning of February the ninth that I arrived in London. 
私がロンドンに着いたのは2月9日の朝であった。


on the morning of February the ninthなんて表現は聞いたことがありません。試しに月を変えて (注: 同じ日付だと700選関連の文章が検索されるため) “on the morning of December the ninth” をググったら検索数ゼロでした。「2月9日の朝で」は正しくは
on the morning of February 9
となります。

627. I was born in Tokyo on the eighth of January in 1985. 
私は1985年1月8日に東京で生まれました。

日付は正しく書けるようになりましょう。「1985年1月8日に」をon the eighth of January in 1985とは言いません。試しに年を変えて “on the eighth of January in 1990” をググったら検索数ゼロでした。「1985年1月8日に」は on January 8, 1985 と書きます。これはアメリカ式です。イギリスでは「日 月 年」の順になり、on 8, January となります。

700選には間違いとは言えないまでは、この和文の訳だともっとわかりやすい英文が書けるのになあと思える英文が多数収録されています。そこで次回は、700選に出てくる英文を今どきの英語で校正してみました。興味がある方はこちらの記事を一度読んでみてください^^。

あわせて読みたい
伊藤和夫『新・基本英文700選』重箱の隅をつつく 以下の記事で『新・基本英文700選』で明らかに間違いと思われる例文をピックアップ(ちなみに「ピックアップ」は和製英語です)しました。 https://www.sanctio.net/700...

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次