「比較する」という意味のcompare。英英辞書には「2つの物や概念の類似点や相違点を調べること」(to examine the similarities and differences between two objects or concepts)という意味が載っていますが、2つのものを比較するのであればcompareの後に前置詞が続ける必要が出ます。compareの後に続く前置詞にはwithとtoがありますが、受験英語では「AをBと比較する」という意味ではcompare A with Bとcompare A to Bのどちらを使ってもよく、「AをBにたとえる」という意味ではcompare A to Bを使うと習うことが多いようです。試しにいくつかの受験参考書を確認すると、
瓜生豊・篠田重晃 『頻出英熟語問題1000』(p.40)では、
153 <compare A to B 「AをBにたとえる」>
A book can be compared to a friend. (本は友人みたいなものである)
➡compare A with B 「AをBと比較する」、compare A to B 「AをBにたとえる」と以前は厳密に区別されていたが、実際にはその違いは曖昧である。読解上は、文内容からその意を決定すること。
『DUO3.0』(p.279)では、
compare A with[to/and]B AをBと比較する(contrast A with B/make a comparison between A and B/draw a parallel [an analogy] between A and B)
compare A to [with] B AをBにたとえる(liken A to be)
『システム英単語 改訂新版』(p.11)では 、
compare A with B 「AとBを比較する」
compare A to B 「①AをBにたとえる ②AとBを比較する」
と説明されています。どうやら受験生は「AとBを比較する」という意味ではwithとtoのどちらを使ってもかまわないと指導されているようです。しかし、compare A with Bとcompare A to Bは同義語ではありません。かなり語感がちがいます。以下、compare A with Bとcompare A to Bのちがいについて説明します。
似たものの違いに注目するcompare A with B
「AとBを比較する」とは「AとBを比べて2つの類似点と相違点を調べる」ことを意味しますが、compare A with Bは比較するAとBが同じカテゴリーに属する場合に使います。注目するのは2つの相違点です。AとBが似たようなものであるからこそ、比較の基準点が設定され、違いに注目することができます。例えば、「食べ比べる」という場合、何を比べるかは「味」であることは一目瞭然です。しかし、「たかしとキッチンテーブルを比較する」という場合、何もかも異なるので相違点に注目することができません。この場合は、逆に類似点に焦点が当たります(例えば、「2つとも足(脚)がある」)。次節で示すように、相違するものから類似点を見出す時に使うのがcompare A to Bです。それに対し、本来同じ性質やグループのものの中に何らかの違いを見出すときにcompare A with Bを使います。
If we compare Japanese schools with American schools, we find there are many differences.
日本の学校とアメリカの学校を比較してみると、様々な違いがあることがわかります。
学校という同じカテゴリーで、日本の学校とアメリカの学校の相違点に注目して比較しています。
The police compared the forged signature with the original one.
警察は偽造された署名を元のものと比較した。
本来同一であるべき2つの署名を比較して違いを見つけようとしています。
When Eri compares her old boyfriend with her new boyfriend, she points out all the ways in which they are different.
エリは昔の彼氏と新しい彼氏を比較するとき、2人の違いをすべて指摘する。
前のボーイフレンドと今のボーイフレンドの違いに注目した比較です。
I compared the performance of my computer with yours, and I must say, your computer is much better than mine.
自分のパソコンとあなたのパソコンを比較したが、あなたのパソコンは私のよりもはるかに優れていると言わざるを得ない。
2つのパソコンの性能の違いに注目した比較です。
違うものの似たものに注目するcompare A to B
本質的に異なるものを見比べて類似点を見出すのがcompare A to Bです。つまりtoの場合は類似性が主題となりますが、その前提となるのがAとBの異質性です。違うからこそ似ているものに注目できるわけです。つまり、compare A to Bはclaim that A and B are similarという意味になります。
Andy compared his math teach to his English teacher and pointed out that they had in much common in regards to their teaching styles.
アンディは数学の先生と英語の先生を比較し、教え方に関しては共通点が多いと指摘した。
数学の先生と英語の先生は本質的に似ているのでwithが使われそうですが、ここではtoが正解です。数学と英語の異質性を前提にした上で2人の類似点に注目しているためです。
Football experts compared Kagawa to the legendary Pelé.
サッカーの専門家は香川選手を伝説的なペレ選手に例えた。
香川は名選手ですが、サッカーの神様ペレと同じ扱いにするのは恐れ多いことです。だから2人を比べる場合はwithではなくtoが使われ、類似性が焦点になります。文脈によって意味が変わりますが、例えば、香川がハットトリックを決めた時にペレくらいすごい選手だと言いたいときにこの表現が使われます。本質的に違うものが似ているというのは、つまり「たとえられる」ということです。「たとえる」とは物事・道理などをわかりやすく説明するために、似ていることや具体的なことに置き換えて話すことを指します。ここでは香川がペレにたとえられています。
Her novel was compared to the work of Haruki Murakami.
彼女の小説は村上春樹の作品と比較された。
彼女の小説は村上春樹の作品に例えられた。
彼女の小説が村上春樹の小説と比較されていますが、2人の小説のちがいを示すためではありません。違うはずなのに類似点も見いだせるため2人は比較されているのです。
She is such a great singer that some people have even compared her to Witney Houston.
彼女はすごい歌手なので、ウィトニー・ヒューストンにたとえた人さえいる。
本来はホイットニー・ヒューストンと比べられるわけはないのですが、ホイットニーと比べる人もいるくらい彼女は歌がうまいというわけです。
Congress may be compared with the British Parliament. Paris has been compared to ancient Athens; it may be compared with modern London.
(アメリカの)議会は英国議会と比較することができる。パリは古代アテネに例えられ、現代のロンドンに例えられることもある。
compareが受動態として用いられた例文ですが、A is compared with Bは「AはBと比較される」、A is compared to Bは「AはBに例えられる」という意味です。この例文では(アメリカの)議会はイギリスの議会、パリとロンドンは同じカテゴリーに属するからwithが使われていますが、今のパリと古代アテネは本質的に異なるのでtoが使われています。違うはずなのに似ているところもあるよと言いたいからはwithではなくtoが用いられているわけです。
compare A to Bを使った一番有名な節がシェークスピアの次の一文です。
Shall I compare thee to a summer’s day?
theeは古語でyouを意味します。「君を夏の一日にたとえようか」と訳されますが、異質な2つを比較しているからtoが使われています。
They compared life to a voyage. 彼らは人生を航海にたとえます。
The poet compared her to a rose. 詩人は彼女をバラにたとえた。
compare A to Bとcompare A with Bのちがいがわかってきたでしょうか。
People compared her to Amuro.
だと、彼女と安室奈美恵をただ比べてみたというのではなく、彼女はアムロみたいに歌やダンスがうまいということを言いたいわけです。これが
People compared her with Amuro.
だと、2人を比べてみたという意味になり、彼女の歌やダンスがアムロ並みにうまいか、それとも下手なのか、この文章だけではわかりません。
The human heart can be compared to a pump.
は受動態の文ですが、ヒトの心臓はポンプとは本質的に異なるのでここでbe compared withは使いにくいです。本質的に異なるものだから「たとえられる」わけです。
このようにcompare A to Bはcompare A and Bに書き換えることができないので注意してください。
同じ意味のcompared withとcompared to
compare A with Bとcompare A to Bの受動態のbe compared withとbe compared toは、従属節において過去分詞で使われる場合は、compared withとcompared toが同義語化してどちらも「~と比べて」という意味になります。イギリス英語ではcompared withが、アメリカ英語ではcompared toがよく使われます。
My smartphone is really bad, compared to yours.
My smartphone is really bad, compared with yours.
はどちらも「俺のスマホはお前のに比べたらマジでヤバい。」という意味になります。
Compared with running, walking is good for people who have knee problems.
膝に問題がある人はランニングよりもウォーキングの方がいい。
Australia is in a good economic position compared with other developed countries.
オーストラリアは他の先進国に比べて経済的に恵まれている。
Compared to physics and astronomy, cosmology is a young science.
物理学や天文学と比べると、宇宙論は若い科学だ。
This was a modest sum compared to what other people spent.
他の人が使ったものと比べて控えめな金額だった。
同じ意味のcomparable toとcomparable with
「~と比較できる」、「~に匹敵する」、「~に相当する」という意味の(be) comparable toと(be) comparable withも同義語です。
We find ourselves in a situation comparable to medieval times.
我々は中世に匹敵する状況に置かれている。
His income is comparable with mine.
彼の収入は私の収入に匹敵する。
同じ意味のin comparison toとby comparison withとby comparison toとby comparison with
「~と比べると」という意味のin comparison to, in comparison with, by comparison to, by comparison withも特に意味の違いはありません。どちらかというとin comparison withよりもin comparison to、by comparison toよりもby comparison withが使われます。
The film is utterly benign in comparison to some of the more violent movies of today.
その映画は、今日のもっと暴力的な映画のものと比べると、全く当たり障りがない。