英語のタイトルを書くときに知っておかないといけないのがキャピタライゼーションルール(capitalization rules)です。タイトルや見出しに大文字を使うルールです。下記タイトルのようにすべて大文字の英語タイトルを見かけることもありますが、
(例) DIURNAL VARIATION OF SUMMER RAINFALL OVER EAST CHINA, KOREA AND JAPAN
ふつうはセンテンスケース(sentence case)もしくはタイトルケース(title case)のルールに従って表記されます。センテンスケースでは通常の英文を書くように最初の単語と固有名詞の最初の文字のみを大文字にします。
(例) A social constructivist approach to computer-mediated instruction
タイトルケースはヘッドラインスタイル(headline style)とも言われます。これがタイトルで一番よく使われる形です。タイトルケースでは文頭と固有名詞以外の単語の初めのアルファベットも大文字にします。多くの新聞はセンテンスケースを採用していますが(タイトルケースを採用している数少ない新聞がThe New York TimesとThe Wall Street Journalです)、論文タイトルはタイトルケースのルールに従うことが多いです。
(例) Efficiency and Equity in Public Research: Rice Breeding in Japan’s Economic Development
気をつけないといけないのが、すべての単語の頭文字が大文字になるわけではないことです。例えば、上の例ではandとinが小文字のままです。日本の英語教育ではキャピタライゼーションルールを教えないので、英語タイトルの書き方に戸惑う研究者が多数おられるようです。また、キャピタライゼーションルールはスタイルガイド(出版物で統一した言葉遣いを規定する手引き)によって異なるので注意が必要です。メインのスタイルガイドには社会科学系のAPA、人文学系のMLA, 医学系のAMA, ジャーナリスト系のChicagoとAPがあります。スタイルガイドの指定がないときは、社会科学論文で定番のAPAスタイルのキャピタライゼーションルールに従うことをお勧めします。
以下、APAスタイルの規定に従って英文タイトルを書いてみます。すべて小文字から一部を大文字にするプロセスと、すべて大文字から一部を小文字にするプロセスの2通りの書き方があります。
小文字から大文字へ
タイトルの英文をすべて小文字からスタートします。
adaptive social constructivism: how individuals continuously shape knowledge while collaborating with others in dynamic social contexts
Adaptive social constructivism: How individuals continuously shape knowledge while collaborating with others in dynamic social contexts
Adaptive Social Constructivism: How Individuals Continuously Shape Knowledge while Collaborating with Others in Dynamic Social Contexts
※名詞(constructivism, individuals, knowledge, contexts)、代名詞(others)、動詞(shape, collaborating)、形容詞(social, dynamic)、副詞(continuously)の頭文字が大文字になっています。
Adaptive Social Constructivism: How Individuals Continuously Shape Knowledge While Collaborating With Others in Dynamic Social Contexts
※接続詞(while)と前置詞(with)の頭文字が大文字になっています。前置詞のisは2文字なのでそのままです。
出来上がりは
Adaptive Social Constructivism: How Individuals Continuously Shape Knowledge While Collaborating With Others in Dynamic Social Contexts
キャピタライゼーションルールの記事はどれも小文字から大文字に変えるルールを説明しています。しかし大文字から小文字に変えるやり方の方が簡単です。
大文字から小文字へ
タイトルに出てくる英単語の頭文字がすべて大文字の時点からスタートします。
Market Efficiency And Economic Growth: Implications For Policy And An Insight On Long-Term Sustainability
Market Efficiency and Economic Growth: Implications for Policy and an Insight on Long-Term Sustainability
これで完成。冠詞(an)、接続詞(and)、前置詞(for, on)の頭文字が小文字になっています。
出来上がりは
Market Efficiency and Economic Growth: Implications for Policy and an Insight on Long-Term Sustainability
頭文字を大文字にしないといけない単語は以下の通りです。
タイトル、サブタイトル、コロン、エムダッシュの最初の単語
名詞・代名詞・動詞・助動詞・形容詞・副詞・4文字以上の接続詞・4文字以上の前置詞
以下の単語は頭文字を小文字にしないといけません。
冠詞 a/ an/ the
3文字以下の接続詞 and/as/but/for/if/nor/or/so/yet
3文字以下の前置詞 as/at/by/for/in/of/off/on/out/per/to/up/via
不定詞のtoも小文字にします。
キャピタライゼーション・ルールで気をつけるべきこと
以下、12の注意事項です。
①タイトルの最後の単語の頭文字を大文字にするスタイルガイドもある
MLAとChicagoとAPではタイトルの最後の単語の頭文字を大文字にします。APAとAMAにはない規定です。例えば、APAで A Global Perspective for はMLAでは A Global Perspective For になります。
②接続詞と前置詞について4文字以上ルールを採用していないスタイルガイドもある
4文字以上の接続詞と前置詞の頭文字を大文字にすると述べましたが、スタイルガイドの中には、異なるルールを指示しているものもあります。接続詞と前置詞についてMLAとChicagoとAPは「4文字以上大文字」と異なるルールを採用しています。和文学術誌は英語ライティングについてAPAスタイルを採用していることが多いので、特に指示がなければ「4文字以上大文字」ルールに従うのがよいでしょう。
③前置詞と同形の副詞の頭文字は大文字にする
これが一番間違えやすいです。3文字以下の前置詞は小文字のままですが、多くの前置詞は副詞としても使われます。
about, above, across, after, along, around, before, behind, below, beyond, by, down, in, inside, off, on, out, outside, over, through, to, under, up
この中で3文字以下の前置詞は以下の7つです。
by, in, off, on, out, to, up
上記7つの単語は前置詞として使われた場合は頭文字を小文字に、副詞として使われた場合は頭文字を大文字にします。
(例)Identifying Key Factors by Applying Statistical Models to Find Out Deviant Patterns in Social Behavior
とくに自動詞に副詞/前置詞を伴う時に注意が必要です。「自動詞+A」の後に目的語を伴わない場合はAは副詞、Aの後に目的語が続く場合はAは前置詞です。
④接続副詞の頭文字はすべて大文字にする
besides, however, moreover, thenといった接続副詞は文と文の関係を意味的に示して接続詞のような役割を果たしますが、文法的には副詞にあたります。そのため3文字以下でも頭文字が大文字になります。3文字以下の接続副詞はsoとyetの2つです。
(例) Globalization Has Spread, So Yet More Inequalities Persist in Developing Economies
⑤以下の群前置詞と群接続詞は不格好に見えますが正しい表記法です
as Though/in Addition to/in Front of/in Order to
⑥ハイフンの後の頭文字は大文字と小文字のどちらにすべきか
2つの語がハイフンでつながれた連結単語はハイフンの後の語も頭文字を大文字にしましょう。
(例) Self-Report (×Self-report)
ただし前の語が単なる接頭辞でそれ自体は単語として成り立たない場合(anti-, mid-, pre-, super-など)、後の語が固有名詞もしくは固有形容詞でない限り、前の語だけ頭文字にします。
(例) Anti-inflammatory (×Anti-Inflammatory), Co-owner (×Co-Owner), Mid-term (×Mid-Term)
また、連結単語の前の語の頭文字は常に大文字になるので、inやonが最初に来るとIn-, On-になります。
(例) In-Time (×in-Time), On-Site Analyses (×on-Site Analyses)
⑦it, its, my, his, her, ourは代名詞なので短くても頭文字を大文字にする
つい小文字にしがちなので注意しましょう。
(例) Deriving Greenberg’s Universal 20 and Its Exceptions
⑧be, is, am, are, wasは動詞なので短くても頭文字を大文字にする
To Be or Not to Beです。
⑨deやvonは固有名詞の一部でも大文字にしなくてよい
Alain de BottonやDietrich von Hildebrandなどの名前のdeやvonはそのまま小文字でかまいません。
➉種名の後半は文末でも大文字にしない
ラテン語の種名は名前の後の部分は頭文字を大文字にしません。例えば、マツタケの種名であるTricholoma matsutakeをTricholoma Matsutakeと書いたら間違いになります。
⑪アルファベットで書かれた数字と分数字の頭文字は大文字になる
(例) The Decision Processes of 6- and 12-Person Mock Juries Assigned Unanimous and Two-Thirds Majority Rules
⑫小文字から始まる固有名詞は文頭にきても小文字のままでよい
iPhoneやeBayはそのまま書いてかまいません。ただし、APスタイルでは大文字(IPhone, EBay)にすることを勧めています。